厳しい暑さが続いた夏も終わりを告げ、一気に秋の気配を感じられるようになった。
細川亜衣がいつも通う市場でも、日を追うごとに野菜や果実が豊富になってきた。中でも、秋の味覚である芋類をはじめとする根菜、みょうがや新しょうが、若い葉野菜などが目を引く。
先日、市場に出かけた細川はお気に入りの生産者の葉野菜がたくさん並んでいるのを見て、居ても立ってもいられず、葉野菜を手に取ったと言う。壬生菜、小松菜、ルーコラ、山東菜、赤水菜……、いずれもまだ小さくて柔らかいのにかじってみると驚くほど濃い味がした。
夏の日差しをいっぱい受けて育った葉野菜。
今回ご紹介する秋の鍋は、葉野菜を豚肉で巻き、れんこんのすりおろしの鍋でいただく「れんこん鍋」である。
豚肉で葉野菜を巻き、弱火で煮ると、肉の内側は直接強い熱が当たらないためにとても柔らかく仕上がる。汁にれんこんのとろみを加えることでいつも熱々で、豚肉や野菜を加える度に汁に食材の旨味が凝縮し、さらにだしとしょうがの風味が加わって汁がどんどんと美味しくなっていく。
新鮮なれんこんの姿はなんとも美しい。
汁とたれには塩麹と酢麹を使っている。塩麹は優しい甘味と旨みを加え、酢と麹を発酵させた酢麹は味のアクセントになっていく。そこに同じく旬を迎えたみょうがとラディッシュを刻んで梅酢をかければ、こっくりとした味の鍋に爽やかな風味を添えられ、優しい味わいに表情が生まれていく。
美しく澄んだ汁にすりおろしたしょうがを入れる。
細川は語る。「この鍋の主役は野菜です。野菜がおいしいことが鍋をおいしく作る上で一番大切なこと。もしよい葉野菜が見つからないのなら、大根やきのこ、白菜、キャベツなど、身近に出回っている野菜で旨味が出やすいものを選んで巻いていただいてもいいと思います。」
優しい秋の味覚が体に染み渡っていく、そんな味わいの鍋である。
れんこん鍋(4人分)
汁
れんこん 中1本
昆布といりこのだし 1リットル
酒 1/2カップ
塩麹 適量
しょうが 適量
具
柔らかな葉野菜(今回は壬生菜、小松菜、ルーコラ、山東菜、赤水菜)
豚しゃぶしゃぶ肉(好みの部位)
たれ①
ラディッシュ
みょうが
梅酢
たれ②
赤みそ
すりごま
ごま油
たれ③
酢麹(酢と麹を4:1であわせ、塩麹を作る要領で発酵させたもの)
ごま油
汁を用意する。
卓上用の鍋に昆布といりこのだし、酒を入れ、塩麹を適量加えてやや薄めの吸い物程度に塩味をととのえる。
中火にかけて沸かし、煮立ったら食卓へ運び、しょうがをすりおろす。
具を用意する。
葉野菜はかたい大きな葉ははずして別の料理に使い、中の柔らかなところを豚しゃぶしゃぶ肉で巻き、葉先が見えるようにしておく。(葉野菜が長い時は適当に折り曲げ、巻きやすく、食べやすい長さにする)
たれを作る。
①はラディッシュとみょうがを小口切りにし、梅酢をかける。
②、③はそれぞれの調味料を器に適量ずつ入れて合わせておく。
食卓で鍋を火にかける。
煮立ったら弱火にし、豚肉を優しい火で煮る。
柔らかく煮えたら汁と共にめいめいの器に取り、好みのたれをかける。
おすすめは①と②の組み合わせをまず食べ、食べ切ってから③を加え混ぜる。
③のみそ味の汁にごはんを入れて食べるとおいしい。
最後に鍋の中に汁が残ったらごはんを入れて煮ておじやにするとよい。
細川亜衣 Ai Hosokawa
料理家。熊本・taishojiにて料理教室や料理会などを主宰。「トースト」(BON出版)、『料理集 定番』(アノニマ・スタジオ)、「旅と料理」(cccメディアハウス)、「taishoji cookbook 1.2」(晶文社)など多数を発売中。毎月、オンラインマガジン『エプロンとレシピ』(grembiuli&ricette)を更新中。
Photography by Ai Hosokawa
Premium Japan Members へのご招待
最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。
Stories
Premium X
細川亜衣 四季の鍋
Premium X