広島駅から山陽本線に乗り、揺られること約40分。西条駅を降りると、広い空に何本もの煙突が伸びているのが目に入る。駅を出てすぐ東側には「酒蔵通り」があり、酒蔵が点在している。この石畳の通りを歩くのが、ことのほか素晴らしいのだ。白壁と黒い海鼠壁、赤レンガの巨大な煙突にはそれぞれの蔵の銘柄名の看板を見ることができる。通りには宿場町の名残の立派な構えの陣屋と、大正時代に入ってから建てられた瀟洒な洋館などもある。この雰囲気の中を歩くだけでも、来た甲斐があったと思うだろう。
広島県最大の西条盆地は、古代は湖であった。そのとき堆積した西条湖成層が良質な地下水、中硬水を生み出している。西条は、すぐれた杜氏たちにより編み出された醸造法と、良質な酒米、そして冬の仕込みに適した気候にも恵まれ「酒都」とよばれるゆえんだ。灘がキレのいい男酒なら、西条はまろやかな女酒といわれている。
「賀茂泉 純米大吟醸 壽」720ml 10,000円(税抜)
「賀茂泉」(かもいずみ)を擁する賀茂泉酒造は、明治44(1911)年、前垣寿一が父の営む米穀卸から23歳の時に酒造業を興し、大正元(1912)年、前垣酒造場を創業。地名の「賀茂」と当蔵所有の山林にある山陽道の名水「茗荷清水」を仕込み水として酒造りをしたことから、「賀茂泉」と名づけられた。二代目前垣寿三は、戦前から戦後、生産量を増加するために普及していた三増酒(アルコールを添加する清酒製造法)を憂い、昭和42(1967)年から米、米麹のみの、旧来からの酒造りである純米醸造を目指し「本仕込賀茂泉」を発売。「純米の賀茂泉」の名が全国に広がっていった。活性炭素ろ過を行わないため、芳醇で豊かな味わいと美しい山吹色した酒として親しまれている。
2019年末、四代目として引継いだばかり。「特別感で売るのではなく、日常に寄り添う、温かい酒を目指したい」と語る。
平出淑恵セレクト 「賀茂泉」おすすめの2本
賀茂泉 純米吟醸 朱泉本仕込
賀茂泉を代表する純米吟醸酒。「さわやかさとキレが特徴。米本来の味、香りを楽しめます。冷やもいいですが、ぬる燗にして飲みたいですね」。
種類:純米吟醸酒
原料米:広島八反、新千本
精米歩合:58%
日本酒度:+1
720ml 1,630円(税抜)
賀茂泉 純米大吟醸 壽
地元、東広島市造賀地区の厳選した山田錦を限界まで精米し、低温でゆっくり発酵。もろみの重さだけで絞られる「袋搾り法」だけで得られた数量限定品。「華やかな吟醸香で、すっきりとした味わい。お刺身などにもぴったりです」。
種類:純米大吟醸酒
原料米:山田錦
精米歩合:35%
日本酒度:+1.9
720ml 10,000円(税抜)
◆賀茂泉 賀茂泉酒造株式会社
広島県東広島市西条上市町2-4
082-423-2118
平出淑恵 Toshie Hiraide
1962年生まれ。日本酒の国際化からインバウンドの地方誘客を目指す株式会社コーポ幸 代表取締役。酒サムライコーディネーター。IWCアンバサダー。昇龍道大使(中部9県のインバウンドアンバサダー)
Premium X 酒造りの誇りを胸に。世界が認める日本酒・蔵元選
日本酒の誇りを取り戻し、日本酒文化を日本国内のみならず、広く世界に伝えていくために、若手の蔵元の全国組織「日本酒造青年協議会」が2006年から始められた活動「酒サムライ」。Sake から観光立国をという夢を実現すべく活動する酒サムライ コーディネーター 平出淑恵が選ぶ、日本酒好きなら一度は訪れるべき個性豊かな酒蔵と、そこで味わいたい日本酒を紹介していく。
(敬称略)
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