大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「EARTH MART」のフィナーレが、大阪港を出港するクルーズ船「飛鳥Ⅱ」内にて、開催された。
食に関わる200名が集結
総合プロデューサー小山薫堂のもと、食の未来を語り明かすべく、料理人、生産者、研究者、経営者、投資家、ジャーナリストなど200名が一堂に会した。
「そもそも大阪・関西万博『EARTH MART』の企画を始めたのは今から5年前、ただの埋立地だった会場予定地に立ちました」
小山は語る。
「そのフィナーレとして、食に関わる分野の異なる人々が、船の上で1泊2日を過ごします。この場所で、新たに出会い、未来に向かって新たな種を蒔く。そこにこそ最大の意義があります」
確かに、食を取り巻く異業種の人々がこれほど参集するのは、まさに空前の画期的な試みである。ちなみに、「飛鳥Ⅱ」は郵船クルーズによる貸し切り提供だ。
「食の未来を輝かせる25人」を選出
当イベントの目玉は3つ。1つ目が、「食の未来を輝かせる25人」を国内外から選出したことだ。
その一部を紹介すれば、「飯田商店」の飯田将太(神奈川県・湯河原町)、「リージョナルフィッシュ株式会社」の梅川忠典(京都市)、「タネト」店主の奥津爾(長崎県雲仙市)、「FARO」シェフパティシエの加藤峰子(東京・銀座)、「味の素株式会社 食品研究所」の川崎寛也(神奈川県川崎市)、「里山十帖」料理長の桑木野恵子(新潟県南魚沼市)、「MAZ」ヘッドシェフのサンティアゴ・フェルナンデス(東京・紀尾井町)、「北三陸ファクトリー」の下苧坪之典(岩手県・洋野町)、「サスエ前田魚店」の前田尚毅(静岡県焼津市)、「中央葡萄酒株式会社」の三澤彩奈(山梨県・勝沼町)、「ESqUISSE」のリオネル・ベカ(東京・銀座)……らである。
2つ目は、その25人が12組に分かれて、「食の未来会議」でトークセッションを行ったことだ。
RED U-35のシェフ6人と監修した落合シェフ(中央)。
RED U-35のグランプリシェフたちによる饗宴
そして最後に、2013年から開催している新時代の若き才能を発掘する日本最大級の料理人コンペティションである「RED U-35 (RYORININ‘s EMERGING DREAM U-35)」で、過去にグランプリを受賞した10名のうち6名が、200名の招待客にコースディナーを提供してくれたことである。
そのシェフたちを列挙すると、福岡市「Restaurant Sola」の吉武広樹、東京都「スーツァン レストラン 陳」の井上和豊、小松市「Auberge“eaufeu”」の糸井章太、山梨県「nôtori」の堀内浩平、京都市「日本料理 研野」の酒井研野、東京都「ESqUISSE」の山本結以の面々だ。
様式としてはフレンチ、日本、中国にまたがるシェフたちの料理を、1人1皿で合計7皿(山本がデザートも担当)の見事なコースに仕立てた。監修したのは「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」の落合務である。誰もが口々に歓びの声を上げた。
「スーツァン レストラン 陳」井上和豊による「発酵唐辛子と鮮魚の蒸しスープ」。
それに先んじたランチバイキングでは、ミシュラン2つ星の「ESqUISSE」リオネル・ベカの「見守る海 牡蠣水寒天ゼリー」、さらにはアジアベストパティシエで「FARO」の加藤峰子が金谷亘と共作した「薔薇と杏仁の錦玉羹」などが供されるという豪華さだった。
白熱のトークセッション
「食の未来会議」についてもう少し詳しく説明したい。先ほどの25名が、テーマを立てて基本的に1対1でトークセッションを行う。同じ時間帯に4つの分科会が同時進行しそれが3セットなので、梯子をすれば別だが、基本的には3つしか傍聴できないシステムだ。
どのセッションも魅力的で、選ぶのは困難だったが、筆者が参加したセッションはいずれも素晴らしかった。
「Oishii Farm」古賀大貴×「北三陸ファクトリー」の下苧坪之典のセッション。
そのうちから2つを紹介すると、まず、「Oishii Farm」古賀大貴×「北三陸ファクトリー」の下苧坪之典のセッションで、テーマは「日本発『食のGAFAM』は生まれるか」。古賀はニューヨーク近郊で日本のイチゴを工場生産している。
「ハチによる受粉がなければ不可能と言われた、イチゴ、トマトなどを新しい技術で作っています」(古賀)
空輸したイチゴを試食したが、実に甘く豊かに広がる味がした。未来においてはあらゆる作物が栽培可能になると予告する。どんな条件下でも無農薬で美味しい農産物が作れるから、食糧難を解決する革命的な植物工場と言える。
「ウニは海藻を食い尽くし、磯焼けを引き起こす海のギャングです。また、海産物には『2048年問題』というものがあって、海に対して何も施さなければ、その頃には、海産物が食べられなくなってしまうと予測されています。それを養殖の割合を増やすことで解決したい。ウニの再生養殖から始めてみようと考えました」(下苧坪)
寿司が食べられなくなる時代は確実にやって来る。それは、魚が卵を産み付ける海藻がなくなってしまうからだ。それを止めるための一つの方策が陸上での再生養殖の技術なのである。
「人々は野菜や肉には関心を示すが、海の危機に対してあまりに無関心であることが最大の問題です。現在日本の天然8割・養殖2割、この割合を変えていかなければなりません」
「味の素株式会社 食品研究所」川崎寛也×ジャーナリスト・仲山今日子のセッション。
フェラン・アドリアとの対峙
もう一つは、「味の素株式会社 食品研究所」川崎寛也×ジャーナリスト・仲山今日子で、テーマは「食は『消えるアート?』『再現可能なデザイン?』本物のおいしさを継承するために必要なこと」。
世界の料理を変えたスペイン「エル・ブジ」のフェラン・アドリアが日本料理について本を書いているという。セッションでは、日本料理の本質を知ってもらいたいと、彼のプロジェクトをサポートする仲山が、フェランを味の素の研究所に連れてきた際に、川崎に引き合わせたエピソードを披露した。
「フェランはとても影響のある人。ほんまに理解して日本料理のことを発信してもらわなあかん」
と川崎は思い、様々な質問に対して丁寧に答えるのだが、
「フェランの質問は、基本的に西洋社会のルールに当てはまるか、なんです。日本料理を本当の意味で理解しようとしているようには思えなかった。拙速に、『日本料理を確立したのは誰なのか?』とか『その文献はあるのか?』と矢継ぎ早に。日本料理は文章に残すものではなく、あえて技術は秘密にしておくことが重要だったので、明確に記述されたものはほぼないのです。彼らの概念ではなく、こっち側の論理で理解して欲しい」
川崎はそう語った。
仲山も、「明文化されていない文化は消えてしまう。日本料理を美意識や文化も含めて文字で残して行くべき」と持論を展開し、さらには会場の参加者も巻き込んだ議論にまで発展した。
ある意味、衝突とも見えた二人の激論は、本対談中の白眉だった。とはいえ、両者は共に最後の未来に残す言葉として、「日本料理の言語化されない部分に着目するべき」と総括した。
小山薫堂によれば、「衝突こそが新しい進歩を生む」のである。
中田英寿がオーガナイズした日本酒が振る舞われた。
平原綾香のパフォーマンス
また、最上階では、中田英寿がオーガナイザーとなり、秋田県の「新政」、三重県の「而今」、栃木県の「仙禽」、熊本県の「産土」、京都府の「日日」の各種日本酒が、ディナー前に振る舞われた。
アフターパーティでは、フルコースディナーで満腹状態の平原綾香がパワフルな歌声を夜のしじまに響かせた。
平原綾香の歌声が海上に響きわたった。
2日目、下船前の朝食もまた印象的なものだった。新米「晴天の霹靂」の白米に、目玉は、サスエ前田魚店の自家製イワシの干物と、里山十帖の桑木野による山菜汁が供された。フィナーレを締め括るに余りあるほど美味しい朝食だった。
このイベントが数年に一度は開催されることを切に願いたい。 (文中・敬称略)
Toshizumi Ishibashi
「クレア」「クレア・トラベラー」元編集長
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