アウトドアを優雅に楽しむ「グランピング」。“glamorous”とcamping“ を組み合わせ、欧米では2000年ころから一般化していたこの言葉が、日本でも聞かれるようになったのは10年程前からのことでした。その先駆けとなったのが、「星のや」の4施設目として2015年に誕生した「星のや富士」です。日本初のグランピングリゾートとして、開業と同時に大きな話題となった「星のや富士」。河口湖を見下ろすその広大な敷地には、客室(キャビン)やダイニング、クラウドテラスなどがアカマツの森に囲まれて巧みに配置されています。2回にわたってお届けする、「星のや富士」宿泊記。第1回目は、これまでのリゾートホテルではとうてい味わうことのできなかった、大自然に囲まれて過ごす優雅なアウトドア時間を紹介します。
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どれを選ぼうかな? リュックサックを選ぶことから始まるグランピング
河口湖畔にほど近いレセプションに到着しました。建物に一歩足を踏み入れると、壁一面に掛かる色とりどりのリュックサックが出迎えてくれます。
ヘッドライトや双眼鏡など、アウトドア用の基本アイテムが装備されたリュックサックは、さまざまな色や形のバリエーションがあり、ゲストは好きなものを選ぶことができます。壁面のディスプレイとしても楽しい、数々のリュックサックを見ただけで、アウトドア気分は否が応でも盛り上がってきます。
壁面にディスプレイされた様々な色と形のリュックサック。アウトドア用品を入れるこのリュックサックを選ぶことから、グランピングが始まる。
急勾配の坂を上ると、周囲は一面のアカマツの森。樹木が発するアロマのような爽やかな香りに包まれる
レセプションからは、「星のや富士」の車でフロントとダイニングが入る棟へ向かいます。途中はかなりの急勾配です。山へ入っていく、という実感が湧いてきます。
車を降りると、ほんの数分ほど走っただけなのに、レセプションのあった場所とは空気が変わったことをまざまざと感じます。それは間違いなく森の匂い。樹木が発するアロマの一種のような、爽やかな香りが鼻孔をくすぐります。
周囲を見渡すと、斜面に沿ってアカマツの林がどこまでも奥深く続いています。まさしく大自然の懐。どこかで鳥も鳴いています。
「星のや富士」の周囲は、見渡す限りのアカマツの森。河口湖畔とは異なる、まさに森閑とした空気が流れる。
客室はコンパクト。アウトドアで過ごす時間を大切にしてほしいから
「星のや富士」では、客室のことを「キャビン」と称しています。河口湖に向かって突き出すように、横に倒した細長い直方体を上下に重ねたような形状で幾つも並ぶその外観を見ると、「キャビン」という名称に納得。
アウトドアで過ごす時間を大切にしてほしいというコンセプトから、部屋はコンパクトにしてミニマム。でも、ベッドやバスルームなどの機能は完璧なまでに整えられています。
湖に面した壁一面の開口部から眺める景色は素晴しく、さらにソファやチェアが置かれたテラスリビングも備わっているので、もちろん客室からでも自然の息吹を存分に感じることができます。
ミニマムで機能的な室内。大きな開口部からの河口湖の眺めが素晴らしい。
テラスに薪ストーブを配したSキャビンのほか、2名使用のTキャビンをメインに、3名で使用できるFキャビンなど、客室は4タイプ。Fキャビンは48平米、他の3タイプはほぼ40平米前後。
細長い直方体を上下2段に積み重ねたようなキャビンの構造。河口湖に面して大きな開口部がとられている。ⒸHOSHINOYA Fuji
木々に囲まれた「クラウドテラス」で薪割り体験。そしておやつタイム
「ライブラリーカフェ」で、おやつの時間があると聞き、フロントデスクを通り抜け、「クラウドテラス」へと向かいます。アカマツの林の中に作られた小径を登り、ゲストが思い思いの恰好で寛ぐ「木漏れ日デッキ」を通り、「クラウドテラス」に到着。
広いウッドデッキの奥の方に炎が見えます。そこは「ライブラリーカフェ」に隣接する「焚き火ラウンジ」。大きく組まれた薪の間で、オレンジの炎が揺れ動いています。「森のひととき」とネーミングされたおやつタイムは、毎日14時30分から17時30分まで。スコーン、季節のフルーツ、スパークリングワインやぶどうジュースなどを自由につまむことができます。もちろん、アウトドアの定番、焼きマシュマロも。
「バシッ」。どこからか乾いた音が聞こえてきました。周囲を見渡すと、薪割りを行っている人の姿が。希望者は、自由にトライできるとのこと。自らが薪を割って、それを「焚き火ラウンジ」で燃やす。アウトドアの原点を垣間見たような気がしました。
「ライブラリーカフェ」でのおやつタイムは、毎日14時30分から17時30分まで。ジャムや餡バターなどお好みのものをスコーンにつけていただく。飲み物はスパークリングワイン、ぶとうジュース、コーヒや紅茶など。
樹々に囲まれた「クラウドテラス」。右手の建物が「ライブラリーカフェ」。炎を取り囲むように、「焚き火ラウンジ」が設けられている。ⒸHOSHINOYA Fuji
足元を木製のプロテクターで保護し、スタッフがまずお手本を披露。真っ二つに綺麗に割るにはコツが必要。8時から8時30分と、15時から15時30分の間にゲストもトライすることができる。
炎を見つめ、誰もが言葉少なく、誰もが幸せそうな表情に
スタッフの方が様子を見ながら、適宜薪を足し、ときには鞴(ふいご)で風を送り、炎の勢いを増してくれます。焚き火から立ち上る煙はどこか懐かしい香りで、そこにぱちぱちと小枝などが燃える音が加わります。
炎を見つめていると、時間がたつのも忘れてしまいそうです。アカマツの森の陰影が次第に濃くなり始めました。夕暮れ近く、気温もぐっと下がり、炎がより存在感を増し、周りを囲む人々の表情を、優しく照らし出しています。誰もが次第に言葉少なく、でも誰もが幸せそうな微笑みを浮かべています。
木立ちに囲まれたアウトドアで、焚き火の炎を眺めながらぼんやり過ごす。心地よく贅沢なひとときが、心身をどこまでも解きほぐしてくれます。
焚き火の定番、焼きマシュマロに挑戦。万遍なく焼き目をつけるのは、意外に難しい。19時から21時30分までは「焚き火BAR」となり、炎を囲みながらウィスキーやワイン、ビールなどを楽しむこともできる。
大きなグリル台からあがるフランベの炎に、心ときめく
夕食はダイニングでのグリルディナー、もしくは屋外のフォレストキッチンと、部屋でのルームサービスを選択することができます。今晩は屋内のグリルディナーをチョイス。
ダイニングの中央に配された大きなグリル台で、さまざまなお肉が豪快に焼かれています。食事をしているゲストの楽しそうな表情と、グリルが発する美味しそうな香りとで、心がときめいてきます。
前菜は、大きな輪切りにした木をプレートに見立て、そこに鹿肉のパテやパストラミ、猪のリエット、鴨のレバーなどさまざまなシャルキュトリーを彩りよく盛り込んだもの。山梨が発酵食文化の盛んな土地であることから、醬油麹などを使い、味に深みを持たせています。熱々のアヒージョには、キングサーモンとニジマスを交配させた山梨のブランド魚「富士の介」の切り身も入っています。
ダイニングの中央には中央に大きくなグリル台が。オーダーした肉は、このグリルでシェフが焼き上げる。ⒸHOSHINOYA Fuji
スターターはジビエと茸のパイ包みスープ。アヒージョには、かぼちゃなどの根菜類もたっぷり入る。
グリル台からあがる炎は、さながらキャンプファイアー
メインのお肉を焼くタイミングで、声がかかり中央のグリル台へ足を運びます。シェフが目の前でフランベ。豪快にあがる炎に周囲から歓声があがります。この日のメインは、和牛サーロウィンのグリル。焼き目がついた表面はクリスピーで、中身はしっとりとレア加減に。絶妙な焼き加減が、和牛の旨みをより引き立ててくれます。
中央のグリル台から時々あがる炎は、さながらキャンプファイアー。室内のダイニングにいながら、優雅なキャンプ気分に浸ることができる、まさしく「グランピング」に相応しいひとときです。
グリル台で焼き上げた牛肉と豚肉を、季節の野菜とともに楽しむことができる。
河口湖を眺めながら客室で味わう、焼き立てのパンと熱々のコーヒー。
森に抱かれようにゆっくりと眠った翌朝、朝食は客室にモーニングBOXをデリバリーしていただきました。
届けてくれたスタッフの方のユニークなバックパックスタイルは、富士山頂を目指す登山者の背負子(しょいこ)からヒントを得たとのこと。そして朝食が入れられた木箱は、バスフィッシングで知られる河口湖にちなみ、ルアーなどを入れる釣具箱をイメージしたそうです。その土地の文化や風土をリスペクトする「星のや」ならではの趣向に感服です。
三段に組まれた木箱の中には、焼きたてのダッチオーブンブレッド、オムレツ、ソーセージ、ミネストローネなどが整然と納まり、それをスタッフの方が手際よくテラスリビングのテーブルにセッティングしてくれます。
目の前の広がる樹々と、その向こうで湖面を輝かせている河口湖。それを眺めながらいただくほかほかのパンと、熱々のミネストローネ。自然が優しく見守ってくれているかのような、そんな不思議な気持ちになります。
朝食はテラスリビングで。しっかりとした保温容器に入ったミネストローネは熱々。パンもほんのり温かい。
木洩れ日の中、森を散策。疲れたら、ハンモックで一休み
朝のうちは少し曇っていましたが、朝食を食べ終わる頃には青空が見えてきました。レセプションで貸していただいたリュックを背負い、森を歩こうと思います。散策路添いには、ハンモックも用意されていると聞きました。チェックアウトまでのひととき、ずっと読むことができていなかった本のページを、ハンモックに揺られながら開いてみようと思います。
敷地内に設けられた散策路を巡る。時には、鹿と出会うことも。ⒸHOSHINOYA Fuji
photos by Nathuko Okada(Studio Mug)
text by Sakurako Miyao
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