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2024.6.18

「星のや沖縄」宿泊記 その2 2泊3日の「うとぅいむち滞在」で琉球文化に触れる

©Makoto Ito

日本国内に6カ所存在する「星のや」のなかで、2020年オープンと、もっとも直近にお目見えしたのが「星のや沖縄」です。「星のや沖縄」では、沖縄に現在も脈々と伝わる琉球文化に流れる「美学」と「おもてなし」の心に触れる「うとぅいむち滞在」を2021年3月より実施。琉球王国が大切にしていた「おもてなし」の心に由来する2泊3日のプログラムで、【ぶくぶく茶】【特製文箱】【琉球舞踊の鑑賞】【琉球料理】【庭めぐり】などのメニューで、沖縄の伝統文化を存分に味わうことができます。

 

2回にわたってお届けする「星のや沖縄」宿泊記。第2回では、「うとぅいむち滞在」の詳細をお伝えします。

 

「星のや沖縄」宿泊記 その1 太陽と海と自然に触れる「星のや沖縄」の魅力はこちらをクリック








海を越えて琉球を訪れた「冊封使」を、
心を込めてもてなした琉球の人々に思い馳せる

 

空、海、砂浜、海岸線に自生する植物の緑。「星のや沖縄」の客室の窓から見えるものはそれだけです。潮の満ち引きによって、砂浜は広がったり消えたり……。数少なくなった、手付かずの自然そのものの海辺の景色は、見飽きることはありません。時間だけがゆっくりと流れていきます。

 

遠くに横たわる水平線を眺めていると、この水平線の向こうから海を越えてやってきた「冊封使(さっぽうし)」と、それを迎える琉球王国の人々の「うとぅいむち」の心に思いが及びます。

 

「うとぅいむち」とは沖縄の言葉で「おもてなし」の意味。琉球王国は、新たな王が誕生する度に、中国から皇帝の使者である「冊封使」を迎え、盛大にもてなしていました。

 

豪華な宮廷料理にはじまり、琉球舞踊や三線(さんしん)などの芸能を披露する宴は、「うとぅいむち」の心の現れであり、この「うとぅいむち」が、琉球の伝統文化発展の礎となってきました。

 

「うとぅいむち滞在」では、2泊3日の滞在中に、この「おもてなしの心」を支えてきた琉球の伝統文化に触れるいくつかのプログラムが用意されています。それを体験することで、自然の美しさだけでない、沖縄のもうひとつの魅力を実感することができます。


沖縄の海 沖縄の海

皇帝の使いとして、海を越えてやってきた「冊封使」。琉球王国の存続を守るため、人々は「うとぅいむち」の心で懸命に「冊封使」をもてなした。©Makoto Ito




まずは沖縄の伝統茶「ぶくぶく茶」を。
クリーミーな泡とジャスミンの香りに心癒されます

 

 

「うとぅいむち滞在」では、沖縄伝統の「ぶくぶく茶」と、冊封使をもてなすために中国と琉球、両方の食文化を取り入れた琉球菓子を客室で楽しむことができます。

 

テーブルの上に大きな木製の鉢、「ぶくぶく皿」が置かれています。そのなかには煎り米を硬水で煮出したお湯と、さんぴん茶が入っています。スタッフが大きな茶筅でそれをかき混ぜると、不思議なことに泡がたってきました。

 



ぶくぶく茶 ぶくぶく茶

「うとぅいむち滞在」では、到着後に客室にスタッフが出向き、「ぶくぶく茶」を点ててくれる。©Makoto Ito




「液体をあまり動かさず、真ん中でなく鉢の縁で手首のスナップを使って茶筅を振ってください」

 

アドバイスをいただき、挑戦してみます。茶筅が思いのほか大きいので、うまく振らないと腕の筋肉が痛くなりそうです。スタッフの方が作る泡のようにクリーミーではありませんが、少しづつ泡だってきました。

 

マカイと呼ばれる小さな器にお茶を注ぎ、「ぶくぶく皿」の泡を形よく乗せ、砕いた落花生をふりかければ完成。

 

泡とお茶を同時に呑み込むようにいただくと、ふんわりとした泡の感触と、さんぴん茶の香りが優しく身体を癒やし、ほのかな甘みの琉球菓子が、お茶の香りをいっそう引き立ててくれます。器も沖縄の伝統的なやきもので取り揃えられています。

 

「うとぅいむち滞在」でまず体験する、客室でのぶくぶく茶。琉球伝統文化への誘いは、ここから始まります。

 


ぶくぶく茶 ぶくぶく茶

ぶくぶく茶に添えるお菓子は、玉子を蒸して甘みを加えた「ちいるんこう」と呼ばれる沖縄の伝統菓子。漆器も琉球漆器。©Makoto Ito




月桃の便箋に、アダンの実の筆で、旅の印象を書き留めて

 

ベッドルームの窓際には、上品な文箱が置いてあります。蓋を開けると、上質な便箋と封筒、そして趣のある筆が入っていました。筆は沖縄で古くから霊木として崇められてきたアダンの実から作られたもので、封筒と便箋は、やはり沖縄を象徴する月桃から作られたものだそうです。

 

 

「冊封使」が沖縄での滞在記を残しているという史実に基づいて用意されたこの文箱。そっと蓋を開けると、歴史が語りかけてくるかのようです。そして、親しい人に、「星のや沖縄」に流れる時間の素晴らしさを、手紙で伝えたくなります。


アダンの実の筆 アダンの実の筆

沖縄では古くから、アダンの実を用いた筆が使われていた。独特の書き味をぜひ試してみたい。浜に打ちあがったサンゴ礁の破片が文鎮代わり。©Makoto Ito

 



西の彼方に陽が沈むころ、「うとぅいむち」の宴が始まります

 

西の彼方の水平線に太陽が沈み、空も海も紺碧から濃い群青へと徐々に色合いを変え始めてきました。「うとぅいむち滞在」の中心となる「琉球料理」と「琉球舞踊」の時間が近づいてきます。

 

 

宴の始まりは琉球料理からです。宿泊部屋とは別に用意された特別の客室に案内されると、テーブルには朱も鮮やかな六角形の漆の器が置かれていました。

 

 

「東道盆(とぅんだーぼん)」と呼ばれるこの漆の器は、大事なお客様をもてなす際の食事に使われる器で、主に琉球王朝の宴席や士族の祝宴で使われていたそうです。

 

「東道盆」に盛り込まれた色とりどりの料理は、中国の吉数に則り奇数の7種。イカに繊細な包丁細工を施して茹でて赤く染めた「花イカ」を中央にし、豚のロース肉に黒ゴマのタレを塗り、蒸してミルフィーユ状にした「ミヌダル」などの6品でそれを囲んだ盛り付けは、箸をつけるのが躊躇われるほどの美しさです。

 

「冊封使」の面々も、琉球王朝の料理文化の高さに、さぞ驚いたに違いありません。

 

 


東道盆 東道盆

伝統的な手法に則っている中央の「花イカ」のほか、シェフ独自の解釈で伝統料理をアレンジ。「ビラガマチ(右上)」は、モダンなたたずまいに、「ごぼう巻き(左下)」にはフォアグラを加えるなど、見た目も華やかな7品が登場。©Makoto Ito


「東道盆」のほかに、前菜としてのミミガー(豚の耳)の刺身、椀物として中身(豚の内蔵)のお吸い物などが、部屋の水屋で料理を整えるシェフによって、タイミングよく運ばれてきます。

 

ラフテー(豚の三枚肉の角煮)、豚の出汁で炊き込んだ沖縄ならではの炊き込みご飯、沖縄伝統の菓子と続いて食事は終了。さながら、琉球王朝の食卓に招かれたような珠玉のひとときです。

 


前菜 前菜

前菜は、ミミガーのピーナッツ和えなど3種。シャンパーニュや泡盛と一緒に。©Makoto Ito




琉球古典音楽と琉球古典舞踊。
揺蕩(たゆた)うような時間が
ゆっくりと流れていきます

 

珠玉の時間はまだ続きます。食事が終わる頃合いを見計らい、琉球王朝時代の士族の正装を纏った男性と女性が部屋に到着。女性が纏う黄色の紅型は目にも鮮やか、男性は三線を構えています。琉球古典音楽と、琉球古典舞踊の始まりです。

 

もともと琉球古典音楽と琉球古典舞踊は、限られた人間のみが、宮廷内の小さな空間で鑑賞する芸能だったそうです。その伝統にちなみ、「うとぅいむち滞在」での古典音楽・古典舞踊観賞も1組限定のとても贅沢な時間となっています。

 

最初は歌三線から。三線を爪弾きながら、端座した男性がゆっくりと歌いはじめます。琉球語で歌われるその内容は、残念ながら分かりませんが、朗々としながらも揺蕩(たゆた)うような歌声は、三線の少し哀調を帯びた音色と響き合い、部屋の空気までもが琉球王朝の悠久の歴史に染められていくようです。


三線 三線

歌三線の演奏者の山内昌也さんは、「琉球舞踊」(歌三線)の重要無形文化財保持者として国から指定を受けている、琉球古典音楽の第一人者。©Makoto Ito


愛する人のために懸命に糸をつむぐ、その切なさを舞う

 

次は琉球古典舞踊。三線に合わせ、紅型の着物を纏った女性が優雅に舞います。

 

演目は「かせかけ」。愛しい人のために布を織っていく心の動きを表現した踊りで、手には紡いだ糸を巻き取る道具を持っています。

 

トンボの羽のような薄い布を織るために、懸命に糸を巻く所作の切なさが三線の調べに乗り、伝わってきます。昔は士族の女性も布を織る作業に従事していたため、この踊りは宮廷内でも披露されていたそうです。

 

最後に再び琉球古典音楽の演奏を聴き、伝統芸能に触れるひとときは幕を閉じます。琉球古典芸能の第一人者である二人の演奏と踊りを間近に、しかも1組の少人数限定で鑑賞できることの素晴らしさを実感した珠玉の極上の時間でした。


古典舞踊 古典舞踊

踊り手の謝名堂奈津さんも、舞踊の教え手として活躍。糸を紬ぐという作業に従事していることを示すために、着物の片袖が抜かれている。©Makoto Ito



「星のや沖縄」に受け継がれている「うとぅいむち」の心

 

2泊3日の滞在の最終日、午前中に行われる「ゆんたく庭めぐり」に参加しました。

 

滞在中に何度も行き来し、少し見慣れてきた庭ですが、スタッフの方の案内のもと、植物の由来や沖縄の文化との関わりなどの話をうかがいながらそぞろ歩くと、緑豊かな庭が、また異なる表情を見せてくれるような気がします。

 

時折行き交うスタッフの制服は、王朝時代に士族女性が祭祀の際に着用した「ドゥジン」と「カカン」をモチーフにし、それをスタイリッシュにリデザインしたものだそうです。しっとりとした藍色と鮮やかなフクギ色(黄色)が、緑の庭を通り抜けていく様子は、美しく颯爽としています。

 

そして何よりも嬉しいのは、誰もが心からの笑顔を浮かべ、丁寧な挨拶を残して通りすぎていくことです。

 

「うとぅいむち」の心は、「星のや沖縄」にも、確実に受け継がれています。


星のや沖縄 庭 星のや沖縄 庭








◆星のや沖縄「うとぅいむち滞在」

今回体験したのは、「星のや沖縄」オリジナルの2泊3日のプログラム「うとぅいむち滞在」。琉球の伝統文化の本質を味わいながら、その背景にある「おもてなしの心」に触れ、「星のや」ならではの贅沢な滞在を満喫できる、少人数限定のプログラムです。

・開催期間      通年

・料金        1名 130,000円(税・サービス10%別)*宿泊料別

・含まれるもの    客室の琉球菓子とぶくぶく茶、琉球料理、琉球舞踊の鑑賞、鑑賞時の泡盛、文箱、庭めぐりへの参加

・予約方法      公式サイトにて14日前まで受付

・定員        1日1組(1~4名)

・対象        星のや沖縄宿泊者

・備考        仕入れ状況により、食材・メニューが変更になる場合があります

 

text by Sakurako Miyao

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