日本国内で栽培されたブドウを100%使用して国内で醸造された「日本ワイン」が目覚ましい進化を遂げ、世界から耳目を集めている。覚醒し始めた「日本ワイン」がパラダイムシフトを起こす中、3人のワインオーソリティーが今、経験すべき12本を厳選し、紹介する。
ワインエキスパート和田大が選んだ日本ワイン×MGVs(マグヴィス)スパークリング甲州
ワインとは究極の6次産業品である。すなわちワインは「自然が生み出す農作物」と「ものづくりの技術が生み出す工芸品」という2つの側面を持つ。前者を訴求する生産者が圧倒的に多い中、MGVsワイナリーは後者を強く訴求する異色の生産者だ。全くの異業種である半導体加工業からワイナリーへの新規参入である。日本の製造業が強みとする高度な生産技術・品質管理技術を、ワイン醸造に移転しようと試みる野心的な生産者である。
半導体加工工場をそのまま転用したというワイナリーでは、空気清浄システムが工場の頃と同様に稼働している。厳格に滅菌管理されたクリーンルームから生み出されるワインは、これまで日本ワインの特徴香であった糠臭さやブレット(腐敗酵母から生じる香)とは無縁だ。屋外にそびえたつタンクは醸造タンクではなく、鮮度管理用の液化窒素が充填されている。なんとこれも半導体工場からそのまま使われているとのことだ。
このワイナリーのすごさは、ワイン醸造工程において必要な要件を従来のワイン醸造を踏襲するのではなく、自分たちが持つ半導体生産のノウハウをもって実現してしまうところだ。「カイゼン」のDNAが擦り込まれた日本人技術者たちは、足りないものは自らの創意工夫によって従来以上のものを生み出してしまう。不足する機材は自分たちで内製してしまい、しかもそれがどんな既存製品よりも高性能だというのだから驚嘆するしかない。
彼らの作品で注目すべきはスパークリングワインだ。スパークリングワインは通常のワインよりもはるかに複雑な醸造工程を経て生産される。日本の精緻(せいち)なものづくりの粋が、より如実に現れるのは言うまでもない。ファーストリリースの「K-537」は、甲州をタンク内二次発酵させたもの。厳密な鮮度管理の結晶とも言うべきピュアな果実感に、品種由来のスパイシーなタッチが適度のアクセントと複雑性を与えている。きれいな酸を保ちながら、シャンパーニュのような神経質さはない。スパークリングブームの中で評価されていい一本だ。
MGVsでは瓶内二次発酵のワインも仕込んでいるとのこと。今後彼らがどのように「カイゼン」を遂げていくか目が離せない。
MGVsスパークリング甲州
作り手:MGVsワイナリー
品種:甲州
特徴:タンク内二次発酵。クールなエチケットのデザインも注目。
価格:3,888円(税込/編集部調べ)
https://mgvs.jp/
Photography by Michinori Aoki
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