2019年9月、新しい時を刻み始める「The Okura Tokyo」。新しいオークラは「オークラヘリテージウイング」と「オークラプレステージタワー」の2棟からなり、オークラの真髄や伝統は継承されつつ、さらなる進化を遂げるという。オークラの魅力を再確認し、新しいThe Okura Tokyoの姿に迫る12のストーリー。
大倉家の家紋や日本の文様をデザインとして生かす。
外光が柔らかい光となって、その空間を静かに照らす
自然の美しさを細やかにとらえ抽象化して表現する日本の創造力。19世紀にはジャポニズムとして西欧に驚きをもたらし、大きな刺激を及ぼした。その美意識が宿る文様の魅力もまた、ジャパニーズ・モダンの傑作となるホテルオークラ東京の建築では目することができた。The Okura Tokyoでさらに、粋のかたちは輝きを放つことになる。
本館の正面玄関に施されていた「菱文」。同様にThe OkuraTokyoのオークラヘリテージウイングの外壁にもデザインされる。
ホテルオークラ東京 本館の正面玄関にあしらわれていたのは、大倉家家紋でもある「五階菱」に由来する菱文。The Okura Tokyoでは「オークラヘリテージウイング」の客室外壁にデザインされる。池や沼、川など水面に浮くヒシの葉や実のかたちによるものといわれる菱文は、現代に至るまで組み合わせ方もさまざまに生まれてきた。オークラの空間内でも設計を手がけた谷口吉郎氏がこの文様を応用した菱くずし文をエレベーターの扉に施すなど、菱文はオークラにとって大切な存在だ。
ホテルオークラ東京本館ロビーにあしらわれていた麻の葉文様の組子。ロビーに降り注ぐ光を組子が優しい光に変えた。
自然に関する文様ではほかに、本館メインロビーに設けられていた麻の葉文様もあり、こちらは「オークラプレステージタワー」で、かつてのメインロビーの再現とともに登場する。200以上存在する正菱形の図柄からオークラが取り入れていたのは縁起のよい「麻の葉」。葛飾北斎や喜多川歌麿らも女性の衣裳に好んで描き、人々に親しみのある文様でもある。建具においても欄間の透かしや障子の木組等で表現されてきた麻の葉文だが、ホテルオークラ東京では、メインのロビーの大間障子の上に、木片を釘や接着剤を用いることなく手作業で格子を組む「組子(くみこ)」の技法でこの文が表現されてきた。The Okura Tokyoにおいては、岡山の佐田建美が制作を担当し、樹齢200年以上の檜を用いて制作された。
組子は木片を釘や接着剤を使わずに手作業で組み立てる。見上げる角度で異なる立体感が生まれる工夫がされている。
ここでも卓越した技に注目したい。これまでの組子は葉の輪郭よりも葉脈がわずか3ミリほど低く組まれていた。見上げる角度に応じて立体的な表情を味わえるよう考慮されていたと推測され、微妙な凹凸をつくる精度の高い技が駆使されていたのだが、再びその技が再現されている。また、この麻の葉の造形では、中央の縦軸を垂直とした一般的な造形と異なり、横軸を水平に、全体を斜めに配置された独自の姿とされている。空間の直線構成を損なうことなく、さらには地面に反射した光を空間にとりいれるための工夫と考えられている。
時代を超えて大切に受け継がれてきた意匠を、それぞれの時代の、それぞれの空間で存分に活かしていく。きめ細やかであると同時に自由な日本の創造性は、ここオークラが創業当時から大切にしてきた精神とともに、現代から未来へと、さらに生き生きとした空気とともに多くの人々の心に響いていくことだろう。
「菱文」は客室の間の外壁側など、「麻の葉文様の組子」はオークラプレステージタワー5階のロビーなどで見ることができる。
(敬称略)
Photography by © The Okura Tokyo
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