本館ロビー

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オークライズムを紐解く12の扉

2019.8.16

7. オークラを築いた建築家・谷口吉郎とそれを進化させる建築家・谷口吉生

2019年9月、新しい時を刻み始める「The Okura Tokyo」。新しいオークラは「オークラ ヘリテージウイング」と「オークラ プレステージタワー」の2棟からなり、オークラの真髄や伝統は継承されつつ、さらなる進化を遂げるという。オークラの魅力を再確認し、新しいThe Okura Tokyoの姿に迫る12のストーリー。

建築制限を逆手に取り、今までにない新しいホテルをつくり出す

昭和34年(1959年)、新ホテルの陣頭指揮を取る野田岩次郎は旧大倉邸の敷地のうち、大倉集古館用地の600坪を除く約7300坪の建築許可をなんとか取ることに成功した。しかし、この地域では正面玄関から20m以上の高さの建物は認められない。そこで考えられたのが、表から見れば6階、裏から見れば10階建てとなる独特の建築。5名の建築家から成る設計委員会の長に指名されたのは、東京工業大学創立70周年記念講堂や赤坂の東宮御所などの建築で知られる谷口吉郎だった。東翼、南翼、北翼の三翼からなる三ツ矢式建築は、ホテル建築としては日本初のもの。外観は当初、谷口が設計を担当する予定だったが、最終的には外務省庁舎などを手がけた小坂秀雄の案が採用され、谷口はロビー、オーキッドルーム、オーキッドバーを手がけることとなった。

本館のオーキッドバーの様子。壁には蘭花照明がある。 本館のオーキッドバーの様子。壁には蘭花照明がある。

本館のオーキッドバーの様子。壁には蘭花照明がある。

大倉喜七郎と野田は最初の話し合いの中で、このホテルを日本の文化、美術、伝統を取り入れたものにし、建物についても「日本風といっても歌舞伎座のような桃山式の派手なものではなく、もっとすっきりしたものにしたい」(野田)という意見で一致。外国人客に日本の風土や伝統の中でくつろいでもらうべく、日本的な要素と欧米の近代ホテル並みの最新設備を兼ね備えた、これまでにない施設を作り上げることを目標とし、谷口はその意向を受けて設計に取り組んだ。そして、その象徴とも言える空間が、傑作の誉れ高い本館ロビー。エントランスロビーよりメインロビーを数段低くしたのは、野田がパリのホテルで見て、落ち着いた空間ができると感心したことがきっかけだった。また、野田がロンドンのクラリッジスに宿泊した際に、エントランスの喧騒を感じさせないロビーの静かな雰囲気に魅力を感じたことから、フロントとエレベーターはエントランスロビーの脇のやや奥まった場所に作られた。


1962年の開業式典の様子。中央が大倉喜七郎、その左が野田岩次郎、右にいるのが谷口吉郎。 1962年の開業式典の様子。中央が大倉喜七郎、その左が野田岩次郎、右にいるのが谷口吉郎。

1962年の開業式典の様子。中央が大倉喜七郎、その左が野田岩次郎、右にいるのが谷口吉郎。

谷口が自らデザインした照明「オークラ・ランターン」や麻の葉文の窓枠、ラウンジチェアと漆塗のテーブルでおなじみのメインロビーは、開放感のある吹き抜け部分と、“夢の架け橋”というコンセプトで設計された天井の低いメザニン部分のバランスが絶妙。この空間は開業から53年の間、オークラの顔として多くの人々に愛され続けた。

本館にあったオーキッドルーム。照明には「オークラ・ランターン」。 本館にあったオーキッドルーム。照明には「オークラ・ランターン」。

本館にあったオーキッドルーム。照明には「オークラ・ランターン」。

そして今年、「The Okura Tokyo」の「オークラ プレステージタワー」に、この本館ロビーが甦る。ホテルオークラ東京が育んできた「日本の伝統美」を再現するべく設計チームに招聘されたのが、谷口の息子で東京国立博物館法隆寺宝物館などを手がけてきた谷口吉生。現代にふさわしいロビーとして設計した。

 

本館の営業終了から約1ヵ月かけて細かく測量、材料や光量、音響などの調査を重ねて膨大な報告書を作り、可能な限りオリジナルを踏襲したという今回のロビー。東向きだった窓面を南向きに変更したり、現代の法律基準に従いメザニンの手摺の高さが変えられたりはしたが、空間の印象を大きく左右する柱には高強度鉄骨を使うことで本館ロビーと同じ太さを実現するなど、随所にオリジナルに近づけるための努力や工夫が施されている。また壁面を飾っていた人間国宝・富本憲吉による四弁花の装飾織物は、当時の図面を元にほぼ同じものを再現。「オークラ・ランターン」も光源をLEDにし、耐震構造などに配慮するなどしながら、シンボルとして輝きを見せる。もちろん、倉庫に保管されていたという家具や行灯も美しく修復され、かつてと同じように配置。本館の空気感まで再現した美しいロビーの風景は、これからここを訪れる人の胸にも強く焼き付けられていくはずだ。

Text by Shiyo Yamashita
Photography by © The Okura Tokyo

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