加速化する電気自動車の普及。
ラグジュアリーカーはどう取り組んでいくのか
自動車業界における“電動化”が進んでいる。新型車の発表会や試乗会も以前よりEVが増えてきた。わたしの周りでも、「そろそろEVに乗り換えた方がいいですかね〜」なんて声が聞こえてくる。
ただ、ひと口に“電動化”と言っても広い意味を持つ。バッテリーを備えモーターを動かすモノすべてを対象としているからだ。つまり、ガソリンやディーゼルエンジンと組み合わせた“ハイブリッド”やそれを外部充電できる“プラグインハイブリッド”もそうだし、内燃機関を持たない純然たる電気自動車もそう。これは “バッテリーEV”なんて呼ばれるためしばしば“BEV”と表記される。“ハイブリッド”は“HEV”、“プラグインハイブリッド”は“PHEV”と呼ばれるように。
こうした流れはハイエンドなウルトララグジュアリーブランドにも当てはまる。ベントレーは2030年には全モデルを“BEV”にすることをアナウンスしているし、フェラーリも次々と“PHEV”をリリースしている。ランボルギーニもそう。今年8月アメリカで、彼ら初の“BEV”のコンセプトカー、ランザドールを発表した。ランボルギーニが掲げる電動化計画からしても、2030年までに大きな変化がありそうだ。
ロールス・ロイスがプライドをかけて電動化へ挑む
そんな中、孤高のブランドとも言えるロールス・ロイスが、“BEV”を発表し、6月に日本でお披露目したのをご存知だろうか。こちらもまたブランド史上初の内燃機関を持たない完全な電気自動車となる。


ボディサイズは、全長5475mm、全幅2017mm、全高1573mm、ホイールベース3210mm。EVパワートレインのモーターは、フロントが最大出力190kW/365Nm、リアが最大出力360kW /710Nm。システム全体で最大出力584hp、最大トルク900Nmを引き出す。パワフルなツインモーターは、0~100km/h加速4.5秒の性能を可能にする。
スタイリングは2ドアファストバックで登場した。いわゆるクーペで、ファントムなどでもお馴染みのリア側にヒンジを付けた前開きドアを装備する。それに伝統のパンテオングリルがドーンと構えるので、まさにロールス・ロイス然とした見た目だ。通常この手のモデルはバッテリーを床下に敷き詰めるため、設計に楽な背の高いクロスオーバーやSUVを世に送り出すのだが、彼らはそうはしなかった。そこはもしかしたらロールス・ロイスのプライドがあるのかも知れない。他ブランドを追いかけない唯我独尊的なスタンスなのだ。
デザインには、伝統的なロールス・ロイスのモデルだけでなく、ヨットやオートクチュール、現代アートからも要素を取り入れた。つまり、同じマーケットに属する人が興味を持つ商品や作品のテイストを取り入れたのだ。そりゃそうだ。自動車業界のトレンドもあるが、時計やファッション、クルーザー云々と、ハイエンドクラスならではのトレンドもあるのだから。


リチウムイオンバッテリーの蓄電容量は102kWh。1回の充電での航続は、最大で530kmに到達する。出力195kWの急速チャージャーを利用すれば、バッテリーの容量の80%を約34分で充電できる。


テールランプの縦のブライトワークは、スペクターのフロントとリヤのスタイルに関連性を持たせるようにデザインされている。
そんな新型車の名前はスペクターと言う。意味は「亡霊」や「幽霊」。ここでお気づきの方もいると思うが、これは彼らがこれまでリリースしてきたファントムやゴースト、レイスとほぼ同様の意味だ。でも不思議だと思わないか? カーメーカーにとって発表するモデルは我が子同然のはず。それなのになぜ「亡霊」や「幽霊」といった恐怖心を煽るような名前をつけるのか。
でも安心して欲しい。そこにはしっかりした理由がある。それはどれも「音もなく忍寄ってくるもの」だからだ。つまり、ロールス・ロイスが伝えたいのは、自分達のクルマはそれだけ静かでスムーズな乗り物だということ。レーシングカーを起源とするベントレーやフェラーリ、アストンマーティン、ブガッティ、マセラティとは生い立ちが違う。他にも、ドーン(Dawn)やクラウド、シャドーというネーミングを使うのもそういう理由である。それらはそれぞれ「朝焼け」、「雲」、「影」を指し、どれも音もなく忍び寄ってくる。


圧倒的な存在感と美しいシルエットはそのままに、新たなスタイルが世界を提案する。


ロールス・ロイスではオプションで、天井に星座を表現した「スターライトヘッドライナー」が選べるが、スペクターはドアの内張り「スターライトドア」も選ぶことができる。
その意味でも、1900年にロールス・ロイス社の共同創業者チャールズ・ロールス氏が「自動車は未来電動化される」という予言は正しかったと思われるし、それに準じる静かなクルマを造ってきたのは事実だ。この静かさはブランドを語る上で欠かせない。そして生まれた今回の“BEV”。どれだけ静かなのかは容易に想像できる。
ロールス・ロイスは我々ジャーナリストからしても謎の多いブランドなだけに興味は募る。新型車がしょっちゅう出るわけでも無いので、接点は多くない。なので伝えられる情報は限られるが、もしスペクターに興味ある方がいらしたら、良きタイミングでディーラーを訪れてみて欲しい。他のカーメーカーには無い、ここだけのオリジナルな世界に驚かされるはずだ。見上げれば天井に広がるロマンチックな一面の星空。それがロールス・ロイスなのである。
Text by Tatsuya Kushima
九島辰也 Tatsuya Kushima
モータージャーナリスト兼コラムニスト。現在、サーフィン専門誌「NALU」のメディアサイト編集長、メディアビジネスプロデューサーを担当。これまで多くのメンズ誌、ゴルフ誌、自動車誌、エアライン機内誌などの編集長を経験している。メディア活動以外では2023-2024日本カーオブザイヤー選考委員、(社)日本葉巻協会会員、日本ボートオブザイヤー選考委員、メンズゴルフウェア「The Duke`s Golf」のクリエイティブディレクターを務めている。
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