ポートフォリオから見える自動車メーカーの位置付け
自動車メーカーにはその生い立ちや経営の理論によって様々なタイプが存在する。そしてそれに基づき、独自のモデルラインナップが形成されると言っていいだろう。
そのタイプは大きく分けると3通りある。大衆車メーカー、スポーツカーメーカー、マーケティングメーカーといったようにだ。
大衆車メーカーはフォードやフォルクスワーゲン、トヨタに代表されるコンパクトカーからフルサイズまでを構成する会社。自動車の大量生産方式を生み出したヘンリー・フォード氏が創業したのがフォード、国策として“国民車”という名前で誕生したのがフォルクスワーゲンとなる。トヨタは民間企業だが、マインドはフォルクスワーゲンと同じであろう。
スポーツカーメーカーは、ここで取り上げるフェラーリやポルシェ、アストンマーティンがすぐに浮かぶ。どこもそもそもレースで勝てるレーシングカーつくりからスタートしている。マーケティングメーカーはロールスロイスやキャデラックあたり。ある特定のマーケットだけに絞ってクルマづくりを続けている。
1947年以来、サーキットとロードでタイムに挑みながら勝利できる車をつくり続けている。
では話をフェラーリにフォーカスするとしよう。
ご存知の方は多いと思うが、フェラーリはそもそもレーシングコンストラクターであった。メーカーと契約し、与えられた車両をレーシングカーに仕立てレースに参戦するチームだ。当初、創業者エンツォ・フェラーリはアルファロメオのレーシングカーを扱うレーシングコンストラクターとして、“スクーデリア・フェラーリ”というチームで戦っていた。彼自身がアルファロメオと契約するレーシングドライバーだったからだ。知っているだろうか、戦前のアルファロメオはレースで戦う高性能な高級スポーツカーメーカーだったことを。多くのクルマ好きの憧れであった。
そしてその後、アルファロメオと訣別した“スクーデリア・フェラーリ”が自らの手でレーシングカーをつくり始めたことから今日のフェラーリの歴史が始まる。1947年のこと。彼らはレースで培ったノウハウを市販車に注入し、それを売ることでレース資金を集めていた。要するに、レースに出場し勝つことが第一プライオリティのメーカーなのだ。もちろん、レースで勝てば市販車が売れるという図式にもなっている。
世界を圧倒する、フェラーリが挑んだ、
プラグインハイブリット限定モデルカー
プラグインハイブリッドパワートレインを搭載して登場したSF90 XX ストラダーレ。
という文脈でご紹介したいのが、9月20日に日本初披露されたフェラーリの新型車SF90 XX Stradale(エックスエックス・ストラダーレ)。世界限定799台というウルトラプレミアムなモデルである。見た目にも感じるスペシャル感。実車を目の当たりにしたが、とんでもない輝きのオーラを発していた。
ではまずこの名前から説明すると、ベースになるのは2019年にリリースされたSF90。これは前述した“スクーデリア・フェラーリ”90周年の記念モデルであった。2019年の時点でフェラーリ社としては創業72周年であったが、その前から活動しているレーシングコンストラクターとしては90年経ったわけである。でもってその812 Competizioneなどの公道モデルのスペシャル・バージョンと言われる限定モデルの最高技術と、XXプログラムの技術特性を融合させた。XXプログラムとは専門性の高いカスタマードライバーを対象にサーキットを限界で走行できるように開発したもので、これまでFXX、599XX、FXX-Kなどが発売されている。公道走行できないサーキット専用モデルだ。つまり、XXプログラムでありながら公道走行ができる仕様として誕生した。
なんかまどろっこしい話だが、毎年の積み重ねを知らないとなかなか理解が難しいのがフェラーリ。彼らは自分達だけの理論で物事を進めているのだから、まんま唯我独尊タイプなのである。
全長×全幅×全高:4850mm×2014 mm×1225mm ホイールベース:2650mm車重:1560kgパワートレイン:3990cc V型8気筒ツインターボ+電気モーター プラグインハイブリッド4WD最高出力:586kW(エンジン)+171kW(モーター)、システム合計757kW最大トルク:804Nm(エンジン)変速機:8段ツインクラッチ
インテリアは軽量化を意識して、機能に直結するところはカーボンファイバー素材が使用されている。
イタリアでは77万ユーロ(およそ1億2100万円)。
スペックであるが、エンジンは4リッターV8ツインターボで、そこにモーターが組み合わされたプラグインハイブリッドとなる。リチウムイオン電池と3つのモーターが搭載されている。今やフェラーリもプラグインハイブリッドの時代。そこを理解していなかった方はアップデートして欲しい。EV走行もカタログ上25キロできる。
最高出力は1030cv。「cv」はフェラーリ特有のパワー単位だが、おおよそそのまま1030馬力と思ってもらってけっこうである。私を含め皆さんの愛車とは単位が一桁違う。最高速度は時速320キロに達するのだ。
というとんでもないスペックの持ち主なので発売後に見かけることはまずないだろうが、フェラーリはこうしたスペシャルなモデルを時々世の中に送り込む。冒頭に記した生い立ちなので、自然とこうなるのだ。そんなところもフェラーリ好き、クルマ好きを楽しませる要因なのだろう。このブランドは知れば知るほどワクワクするし、毎度毎度彼らに驚かされている。
Text by Tatsuya Kushima
九島辰也 Tatsuya Kushima
モータージャーナリスト兼コラムニスト。現在、サーフィン専門誌「NALU」のメディアサイト編集長、メディアビジネスプロデューサーを担当。これまで多くのメンズ誌、ゴルフ誌、自動車誌、エアライン機内誌などの編集長を経験している。メディア活動以外では2023-2024日本カーオブザイヤー選考委員、(社)日本葉巻協会会員、日本ボートオブザイヤー選考委員、メンズゴルフウェア「The Duke`s Golf」のクリエイティブディレクターを務めている。
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