電動化が進む自動車業界において、あえて12気筒へ挑戦するフェラーリ
6月11日、フェラーリが新しいモデルを発表した。“ドーディチ チリンドリ(Dodici Cilindri)”という名のモデルである。発表の場となったのは虎ノ門ヒルズステーションタワー。そこで多くのメディアを招いてアンベールが行われた。すでに5月3日マイアミでワールドプレミアされていたにも関わらずたくさんの報道関係者を集めるのだからすごい。フェラーリブランドのプレゼンスの高さを感じる。
ではどんなモデルが登場したのか。ポイントは2つあると思う。一つはエンジン、そしてもう一つはデザインだ。
そのエンジンだが、イタリア語を話す方ならすぐにわかったかもしれないが、ドーディチ チリンドリの名が表している。そのまま日本語に変換するなら“12気筒”。つまり、エンジンはV型12気筒ということになる。ドーディチが“12”、チリンドリが“シリンダー”を意味する。ただ、数字はともかく、“シリンダー”がチリンドリとはわからないかも知れない。第二外国語としてイタリア語を習ってもシリンダーという単語が教科書に載っているとは考えにくい。日常会話で「このクルマは何気筒エンジンですか?」、「12気筒です」なんてやりとりはまずない。
全長4733mm×全幅2176mm×全高1292mm、ホイールベース2700mm。最高出力830cv 、最大トルク678 Nm。
シートには“跳ね馬”の刻印。
それにしてもフェラーリはなぜ12気筒をそのまま名前にしたのだろう。ちょっと簡単すぎるというか、深く考えていないというか。もっと素敵なドリーミングなネーミングでもよかったと思う。例えばV8エンジンをフロントに積んだフェラーリ ローマのような。なんとなくローマと聞いてロマンティックなイメージを持ってしまうのは私だけではないはずだ。
とはいえ、よくよく考えると、ローマもまた安易なネーミングに思えてくる。その直前はポルトフィーノで、都市の名前をそのまま拝借している。それ以前は360モデナや550/575マラネロなどフェラーリと関係のある土地の名前が用いられた。モデナはフェラーリ本社のあるエミリア=ロマーニャ州の県名、マラネロは本社のある町名だ。ちなみに458イタリアなんてモデルもあるから、3つ合わせれば本社の住所になりそう。ただ、エミリア=ロマーニャが付くモデルはまだない。
名は体を表す 車から語学を学ぶのも粋である
それはともかく、ドーディチ チリンドリにしたのは12気筒を強調したかったのだろう。電動化が進むと自然吸気の12気筒エンジンは消滅する方向へ向かう。排ガス規制が年々厳しくなっているのが理由だ。V8もしくはV6+モーターに取って代わる可能性は高い。
それにしてもこの名前を覚えるのは少々時間がかかりそうだ。現時点では聞きなれないワードの連続だけにつまらずに言える自信はない。が、これまでの経験を踏まえると、意外とすぐサラッと言えるようになる気もする。マセラティ“クアトロポルテ”やフィアット“チンクエチェント”あたりがいい例。初見は「なんのこと?」だったが、今はフツーにこれで会話している。
そんなクアトロポルテもマセラティの歴史を知らない人には不思議なネーミングに思えるはず。クアトロ=“4”、ポルテ=“ドア”で、“4枚ドア”というモデル名だからだ。が、このブランドがそもそもスポーツカーメーカーで2ドアがデフォルトだと知れば、この名前も腹落ちする。4枚ドアは珍しいのである。
今回はベルリネッタ(クーペ)が発表されたが、今後はスパイダーも導入される予定。車両価格はベルリネッタが5,674 万円から、スパイダーが6,241万円からの模様。
ユーザーの手元に届くのは欧州仕様がベルリネッタは2024年第4四半期から、スパイダーは2025年第1四半期からとされており、日本仕様はそれよりもさらに先になるだろう。
ドーディチ チリンドリの名前に引っ張られて話がだいぶずれてしまったが、このバンク角65度の6.5リッター12気筒エンジンは812シリーズのユニットに由来する。パワーは830cv、最高回転数は9500rpmなのだからレーシングカー並み。というか、バイクみたい。そしてその改良されたコンポーネントやソフトウェアはすでに812コンペティツィオーネに採用されている。コンペティツィオーネは英語の“コンペティション”。要するに“競技車両”を指す。
では2つ目のポイント、デザインに移ろう。このクルマのデザインは素直にカッコイイ。写真よりも実車の方が抑揚がわかりスタイリッシュに見える。洗練されたアーバンテイストな雰囲気だ。フェラーリは少し前までエアロダイナミクスにこだわることで個性的になりすぎていた。空気抵抗値を下げ、エンジンやブレーキを風で冷却することを優先したからだ。が、フェラーリ ローマ以降その考えは変わり、かつてのような妖艶さが戻ってきた。ドーディチ チリンドリはまさにその路線のモデル。ボンネットからフロントバンパーまでの一体化したラインが滑らかに仕上がっている。しかもグリルをブラックアウトすることで、かつてのフェラーリ365GTB/4、通称デイトナを思い出させる。いやはやいい感じ。
といった概要のモデルだが、ついでなのでクルマ好きが周りにいる方はドーディチ チリンドリという名を覚えておくといい。サラッと言えたら「すごい、クルマに詳しいね!」と褒められるはず。ただ、それ以外にこのイタリア語の汎用性はないのであしからず。イタリア旅行で「シリンダーをイタリア語で言えて助かった」なんてことにはけっしてならない。
Photo by Ferrari
九島辰也 Tatsuya Kushima
モータージャーナリスト兼コラムニスト。現在、サーフィン専門誌「NALU」のメディアサイト編集長、メディアビジネスプロデューサーを担当。これまで多くのメンズ誌、ゴルフ誌、自動車誌、エアライン機内誌などの編集長を経験している。メディア活動以外では2023-2024日本カーオブザイヤー選考委員、(社)日本葉巻協会会員、日本ボートオブザイヤー選考委員、メンズゴルフウェア「The Duke`s Golf」のクリエイティブディレクターを務めている。
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