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その先の京都へ

2023.12.10

実光院、法然院、詩仙堂、祇王寺……冬の京都で味わう、古寺の庭園/花巡り4選

©Akira Nakata




訪れる人も少なくなった京都の寺院の境内に咲く冬の花。人知れず健気に開く花は、凛とした空気の中で、たおやかな彩をともない、そこだけ少し温かな気配すら感じさせてくれる。山茶花、椿、寒牡丹……。春や秋とは異なる表情を見せる、冬の花がしめやかに咲く京都の古刹、実光院、法然院、詩仙堂、祇王寺の冬の庭、そして花の見ごろなどを紹介する。

 

 

実光院
冬枯れの境内の一角を薄紅に染める桜


















実光院 実光院

3年ほどの前の雪で枝が折れ、現在ではこの写真の姿とは少し異なるものの、育った若木が花を咲かせ始めている。 ©Akira Nakata



実光院の不断桜 実光院の不断桜

「実光院」の「不断桜」は固有名詞として使われ、十月桜の一種。日本各地で見られる品種としての不断桜は山桜と大島桜の掛け合わせで、「実光院」の「不断桜」とは品種が異なる。 ©Akira Nakata

 






洛北の地、大原を代表する寺院「大原寺 勝林院」の塔頭寺院のひとつが「実光院」。室町時代に復興された「実光院」には、池泉鑑賞式の「契心園(けいしんえん)」と池泉回遊式の「旧理覚院庭園(きゅうりかくいんていえん)」のふたつの庭園があり、約120種類もの山野草が四季折々の花を咲かせる「花の寺」として知られている。冬、「旧理覚院庭園」の一角は薄紅色の空気に包まれる。厳しい寒さに耐えながら、なんと桜が花を開かせている。「不断桜」と命名さられたその桜は、名前が物語るように、「断えることなく咲く桜」で、秋から翌春にかけて咲く珍しい品種の桜だ。冬枯れの境内で、懸命に花を付けている桜は、たおやかながらも同時に古刹ならでは品格を湛え、見る者の背筋を少し伸ばしてくれるかのようだ。

 

 

凍てついた地面から鮮やかな黄色の花を覗かせる福寿草





福寿草 福寿草

「福寿草」が「元日草」とも呼ばれるのは、旧暦の正月(現在の2月)に花を開かせることによる。©Akira Nakata




回遊式庭園を歩く。福寿草が地面から顔をのぞかせている。よくぞこんな場所に、と思われるような地面の片隅から鮮やかな黄色の花を咲かせる福寿草は、「元日草」という別名もあるように、新年の季語でもある。年明けから2月頃という、まさしく厳寒の時期に開花するが、この花が顔を見せると春の訪れもそれほど遠くはない。

 




雪景色の中の万両 雪景色の中の万両

雪景色のなか、万両の赤い実がひときわ際立つ。©Akira Nakata





大原の地は、雪も多い。境内一面が白く雪化粧するなか、ひときわ際立つ存在感を示しているのが万両。雪の白、葉の緑、そして万両の赤。見事なまでのコントラストがひととき寒さを忘れさせてくれる。万両、千両、南天。冬に赤い実を付ける植物として知られるこの三種の違いは、万両が葉の下にサクランボのように垂れ下がって実をつけるのに対し、千両は葉の上に固まって実がなり、南天は葡萄のような実の付き方となる。覚えておくと、冬の庭巡りが少し楽しくなる。

 

客殿の欄間を彩る江戸中期の狩野派絵師による三十六歌仙をはじめ、音律の規準音を定める「編鐘(へんしょう)」と飛ばれる楽器や、声明を練習するために代々の住職が蒐集した讃岐石で作られた楽器、格式高い茶室など、花以外にも見所の多い「実光院」。観光客も少ない冬の大原は、ひときわ深い味わいを見せてくれる。

 




実光院 実光院

◆実光院  冬の花の見ごろ時期

不断桜の開花時期 秋から翌春にかけて
福寿草の開花時期 1月末から2月上旬
万両の見頃時期  12月上旬から2月下旬

 

 

実光院
京都府京都市左京区大原勝林院町187
開門時間 午前9時~午後4時(季節によって変更あり)

 

 

 

 





法然院
厳粛な空気のなかで、命の輝きを見せる真紅の山茶花





法然院の山茶花 法然院の山茶花

山茶花の花言葉は「ひたむきな愛」。極寒の冬にも、赤い花を咲かせることが、その由来とされている。©Akira Nakata




哲学の道や銀閣寺からもほど近い、東山の山間に境内を構える「法然院」。伽藍内の特別公開が行われる春と秋以外は、拝観できるのは庭園だけとあって、冬には訪れる人も疎らで、森閑とした空気に満ちた寺院だ。哲学の道から洗心橋を渡り、10分ほど歩くと総門へと続く石段が見えてくる。階段脇には「圓光大師」と彫られた石碑が立つ。「圓光大師」とは、浄土宗の開祖である法然上人のことで、鎌倉時代に法然が弟子たちとともに、この地で修行を重ねたことに由来する。




法然院の山茶花 法然院の山茶花

©Akira Nakata





山門を入ると、参道の両側に白い盛り砂がある。「白砂壇(びゃくさだん)」と呼ばれるこの盛り砂は水を表し、心身を清めて浄域に入ることを意味する。この「白砂壇」脇に、鮮やかな赤い花を付けているのが、山茶花だ。抽象的な模様が描かれ、厳粛な雰囲気を漂わせる盛り砂と、命の輝きを見せる真紅の山茶花。その好対照が心を癒やしてくれる。初冬から新年にかけて香り良い花を咲かせる山茶花は、椿とは異なり花弁が一枚づつ散っていく。その儚げな佇まいや、地面に落ちた花びらもまた風情がある。

 

 

京都ゆかりの文人が眠る墓に参拝するひととき




梅擬 梅擬

梅擬は、モチノキ科モチノキ属の落葉低木で、赤い実が好まれ庭木や公園樹によく使われる。©Akira Nakata




「白砂壇」を通り過ぎると石橋が掛かる「放生池(ほうじょういけ)」が左右に広がり、その池の畔には、梅擬(うめもどき)の木が、やはり赤い実をたわわに実らせている。この梅擬、葉が梅に似ていることから、その名が付けられたとされているが、葉が落ちた後も赤い実が残るので古くから観賞用の庭木として親しまれてきた。

 

法然院には、谷崎潤一郎、内藤湖南、川上肇など、京都ゆかりの文人の墓も多い。冬の花を巡りながら、こうした墓に参拝するひとときも、また格別な趣をもたらしてくれる。

 


法然院 法然院

◆法然院  冬の花の見ごろ時期

山茶花の開花時期  12月初旬から1月下旬
梅擬の見頃     11月上旬から2月下旬

 

 

法然院
京都府京都市左京区鹿ケ谷御所ノ段町30番地
開門時間 午前6時~午後4時





詩仙堂
樹齢350年の名木の系譜を引き継ぐ、小有洞脇の山茶花




山門を覆うかのように枝を伸ばす山茶花 山門を覆うかのように枝を伸ばす山茶花

見事なまでに枝を伸ばす山茶花。道行く人も立ち止まって、見上げるほど咲き誇る。©Akira Nakata




江戸時代の文人、石川丈山が隠居後の住まいとして造営した「詩仙堂」は、美しい庭園を備え、とりわけ5月のサツキと11月下旬の紅葉には、多くの人が訪れる名所となっている。実はこの「詩仙堂」は、山茶花の名所でもあり、かつては京都随一の山茶花といわれた樹齢350年を超える名木が庭園内で白い花を咲かせていたことで知られる。残念ながらその名木は枯れてしまったが、小有洞脇の山茶花の大樹が、冬の詩仙堂を訪れる人を出迎えてくれる。樹齢100年ほどのこの山茶花も、今や名木の域に達し、初冬には数多くの白い花を咲かせる。また、「詩仙堂」は椿の名所としても知られ、とりわけ石川丈山の名を冠した「丈山椿」や、白玉椿などが冬の庭に彩を添えてくれる。







隣あって実を付けた千両と万両 隣あって実を付けた千両と万両

隣あって実を付けた千両と万両。左が千両で右が万両。実の付き方の違いがよくわかる。©Akira Nakata




雪の詩仙堂 雪の詩仙堂

非毛氈が鮮やかな雪の詩仙堂。緑豊かな春や夏とは、また異なる世界が出現する。©photoAC




また、「詩仙堂」はいわゆる「鹿威し(ししおどし)」と呼ばれる、水が溜まった竹筒が石を一定の間隔で叩く仕掛けを丈山が初めて編み出し、その音を楽しんだ地とされている。喧噪に包まれる行楽シーズンではなかなか聞こえなかった音も、静まり返った冬の庭では、ことさら心地よく響く。そここで実をつける千両や万両も冬枯れの庭に、可憐なアクセントとなっている。





詩仙堂 詩仙堂

◆詩仙堂 冬の花の見ごろ時期
山茶花の開花時期  12月初旬から1月下旬
千両と万両の見頃  12月上旬から2月下旬

 

 

詩仙堂
京都府京都市左京区一乗寺門口町27番地
開門時間 午前9時~午後5時(受付終了午後4時30分)

 




祇王寺
悲恋の寺の歴史を偲ばせる、健気に咲く寒牡丹





えもいわれぬ景色となった冬の「祇王寺」 えもいわれぬ景色となった冬の「祇王寺」

枯木立の地面を覆う苔。その苔にうっすらと雪が積もり、えもいわれぬ景色となった冬の「祇王寺」。






苔の寺として名高い「祇王寺」。冬の時期は、苔のベストシーズンとは言い難いが、それでもなお緑に覆われた庭は、枯木立と相まって、独特の風情を醸し出す。平清盛の寵愛を受けた白拍子の祇王が清盛の心変わりによって都を追われ、母と妹を伴ない小さな庵を結んで隠棲し生涯を終えた場所が、後世に「祇王寺」と呼ばれるようになった。こうした成り立ちから、悲恋の尼寺としても知られている。祇王が入寺した当時は「往生院」と称されていた寺は、中世以降衰退し、明治になると廃寺となり荒れ果てたが、明治28年に元京都府知事、北垣国道氏が嵯峨にあった別荘一棟を寄進し、再興された。大寺院の大きな伽藍とは異なるこぢんまりとした草庵は、奥嵯峨の詫びた風景に溶けこみ、悲恋の歴史をしのばせる楚々とした佇まいだ。





雪を被りながらも、その下で懸命に緑を保とうとしている杉苔。 雪を被りながらも、その下で懸命に緑を保とうとしている杉苔。

雪を被りながらも、その下で懸命に緑を保とうとしている杉苔。




千両 千両





祇王寺の庭 祇王寺の庭





目を凝らすと、雪の下には緑を湛えた苔が見え隠れする。冷たい雪に耐え春を待つ苔は、都から逃げ落ちながらも懸命に生きた母娘をどことなく偲ばせる。ふと気が付くと、そこここで千両や南天が鮮やかな赤い実を付けている。草庵を出て左の小径を進むと、古びた塔が立ち並ぶ一角となる。そのなかのひとつ、承安二年(1172年)と刻まれた碑の奥にある塔が、祇王を祀る塔だと言われている。風雨に晒されながらも奥嵯峨の地に立つ塔の前でしばしたたずむ。祇王の哀切に満ちた嘆きが、長い歳月を越え、微かに聞こえてくるかのようだ。

 

 


祇王寺 祇王寺

祇王寺
京都府京都市右京区嵯峨鳥居本小坂町32
開門時間 午前9時~午後4時50分(受付終了午後4時30分)

 

 

写真提供=祇王寺




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