京都 美山かやぶきの里の夏。そばの花が咲く。京都 美山かやぶきの里の夏。そばの花が咲く。

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その先の京都へ

2023.8.31

京都美山・かやぶきの里へ。泊まってみたい かやぶきの宿3選













京都府には、かつて「丹波国」と称されていた地域がある。現在の亀岡市、南丹市、京丹波町などがそれにあたり、いずれも緑豊かな山地や美しい川など、手つかずの自然が残るエリアだ。こうした豊かな自然とともに暮らす人々が、守り育んできたもののひとつが、「かやぶきの里」の美しい景観である。この「かやぶきの里」内、実際に泊まることができるかやぶきの民宿をはじめ、地元の食材をふんだんに利用した料理旅館、さらには新しいスタイルの宿泊施設など、3軒のかやぶき宿を紹介する。




「美山かやぶきの里」
山の麓に抱かれるように点在する、かやぶきの民家

 

 

京都駅から車で約1時間20分。なだらかな稜線を描く山々の麓に抱かれるように、かやぶきの民家が点在する。「美山かやぶきの里」だ。国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されたこの集落に建つかやぶきの民家は全部で39棟。江戸時代中期から明治時代初期にかけて建てられたものが多く、正式には「北山型民家入母屋造り」と呼ばれている。

 

集落内を歩く。原色は、郵便ポストとお地蔵さんの前掛けの赤のみ。かやぶきの屋根をはじめ、建物や隣に建つ小屋の壁まですべてが、茶系色のグラデーションをなし、そこに障子の白が際立つ。訪れる誰をも安心させる柔らかな空気。それはこれらのかやぶき古民家に、今も人が実際に暮らしているという生活感が醸し出す空気だ。





「美山かやぶきの里」 「美山かやぶきの里」

集落内への車の乗り入れは住民以外禁止。のんびりと散策することができる。主屋の屋根は、すべて近隣を流れる由良川の流れと平行に建てられている。







毎年5月に行われる「お田植祭」。5月には、消火施設の点検のために、消火栓からの一斉放水も行われ、その光景を目的に多くの人が訪れる。 毎年5月に行われる「お田植祭」。5月には、消火施設の点検のために、消火栓からの一斉放水も行われ、その光景を目的に多くの人が訪れる。

毎年5月に行われる「お田植祭」。5月には、消火施設の点検のために、消火栓からの一斉放水も行われ、その光景を目的に多くの人が訪れる。

 







「民宿 久や」集落内の高台に建つ、築150年のかやぶきの宿





「かやぶきの里」集落内に泊まれる宿「民宿 久や」

 

「民宿 久や」は、「かやぶきの里」集落内の宿泊施設として、国内はもとより海外からの旅行者にも人気を博している民宿だ。やや高台に建つかやぶきは築150年前後。里の中では、それほど古い方ではないとのことだが、飴色に輝く太い梁が、積み重ねられた歴史を物語る。

 

 

部屋は3室のみで、居間と食堂を兼ねた囲炉裏の間を囲むようにその3室がレイアウトされている。8畳と縁側がついた庭に面した部屋をはじめ、どの部屋もそれほど広くはないが、こぢんまりと落ちついた空気が流れている。とりわけ、庭に面した部屋からは庭の緑ごしに茅葺の屋根が見え隠れする、「かやぶきの里」ならではの光景が広がる。




庭の緑ごしに見え隠れする茅葺の屋根。風情ある光景を縁側から心ゆくまで味わう。 庭の緑ごしに見え隠れする茅葺の屋根。風情ある光景を縁側から心ゆくまで味わう。

庭の緑ごしに見え隠れする茅葺の屋根。風情ある光景を縁側から心ゆくまで味わう。





地鶏鍋 地鶏鍋

地鶏のさまざまな部位を野菜と一緒に豪快に煮込む。都会では味わうことのできない野趣あふれる鍋料理は、ことのほか美味。





「久や」の看板料理は、地鶏のすきやき鍋。近隣で平飼いされている地鶏を、その日の朝に潰して仕込む鍋は鮮度抜群だ。もも、胸、レバー、ささみなど、さまざまな部位をたっぷりの野菜とともにぐつぐつ煮込んでいただく。囲炉裏を囲んでの楽しさも加わり、大ぶりの鍋で煮込んだ鶏肉は、どれだけでも食べられる。



ご主人の中野忠樹さんは、民宿を営む一方で「一般社団法人 京都・美山・北村かやぶきの里保存会」の副会長として、「かやぶきの里」の景観保存だけでなく観光ガイドも進んで行っている方。夕食後のひととき、そんな中野さんに「かやぶきの里」の歴史や、かやぶきの建物の特徴を話しを聞くことができるのも、「かやぶきの里」に泊まってこその楽しみだ。

 

 

 

民宿 久や
京都府南丹市美山町北中牧5
TEL: 0771-77-0550

 






「きぐすりや」家族経営の小さな宿で味わう、ジビエ会席とぼたん鍋

きぐすりや きぐすりや

薬商を営んでいた明治時代のたたずまいを残す「きぐすりや」。建物の反対側には、京都と若狭を結ぶ鯖街道の面影を伝える小道が現存する。






今春完成した、1日1組限定の「別館茅葺古民家」に泊まる

 

 

「きぐすりや」。そんな一風変わった名前の料理旅館が、美山地区で暖簾を掲げている。創業は大正8年。明治時代には薬商を営み、「生薬屋」としていた屋号を、そのまま受け継いでの料理旅館である。京都と若狭を結ぶ鯖街道を行き来する商人たちが「きぐすりや」に荷を下ろし身体を休め、名物の料理に舌鼓を打った。歴史を感じさせる、趣のある宿だ。

 

 

2023年春、1日1組限定の「別館茅葺古民家」が完成した。明治13年建築というから、築140年以上。江戸時代から続く農村の庄屋家だったという、美山でも最大級のかやぶき宿である。おくどさんと呼ばれるかまどのある土間、そして囲炉裏端。時がゆるやかに流れるような、くつろぎがある。






江戸時代から続く農村の庄屋屋敷を、ほぼそのまま改築。1日1組限定の「きぐすりや別館」として、今年の春にお目見えした。 江戸時代から続く農村の庄屋屋敷を、ほぼそのまま改築。1日1組限定の「きぐすりや別館」として、今年の春にお目見えした。

江戸時代から続く農村の庄屋屋敷を、ほぼそのまま改築。1日1組限定の「きぐすりや別館」として、今年の春にお目見えした。






鹿や猪の肉を使った
新たな発想の「ジビエ会席」が楽しめる宿

 

家族経営の小さな宿「きぐすりや」は、美山の旬の食材を活かした料理で知られ、そのアットホームさも相まって、京都のみならず多くの人が全国から足を運ぶ。夏の鮎尽くし、冬のぼたん鍋、通年の地鶏料理……。こうした昔ながらの料理に加え、最近注目を集めているのがジビエ会席だ。

 

 

鍋や煮物など、今までの限られた調理法ではなく、フランス料理の「ジビエ」の発想を取り入れたとき、時として取り扱いに苦慮していた鹿や猪の肉が、豊かな食材へと新たな価値を纏うこととなった。鹿肉は、カツレツ、ワイン煮、コロッケに、猪はベーコンにしてサラダのトッピングに……。昔ながらのぼたん鍋や由良川の清流で育った鮎も美味。かやぶき屋根の下で味わう、丹精込められた料理は格別。至福の時間が流れる。






鹿肉のカツレツ。鹿の肉は高たんぱく、低カロリーで低脂肪と体にもよい。臭みもなく柔らかい。 鹿肉のカツレツ。鹿の肉は高たんぱく、低カロリーで低脂肪と体にもよい。臭みもなく柔らかい。

鹿肉のカツレツ。鹿の肉は高たんぱく、低カロリーで低脂肪と体にもよい。臭みもなく柔らかい。





鹿肉のワイン煮。すねの部分を赤ワインでじっくり煮ると、滋味豊かな一品となる。 鹿肉のワイン煮。すねの部分を赤ワインでじっくり煮ると、滋味豊かな一品となる。

鹿肉のワイン煮。すねの部分を赤ワインでじっくり煮ると、滋味豊かな一品となる。





昔ながらのぼたん鍋。山のどんぐりをふんだんに食べて育った猪の肉は甘く、脂身もクセがなくあっさりとしている。 昔ながらのぼたん鍋。山のどんぐりをふんだんに食べて育った猪の肉は甘く、脂身もクセがなくあっさりとしている。

昔ながらのぼたん鍋。山のどんぐりをふんだんに食べて育った猪の肉は甘く、脂身もクセがなくあっさりとしている。





「きぐすりや」はかつては薬種商だった。宿を始めたころは生薬を入れた風呂を提供していたこともあり、風呂にもこだわっている。この春に本館に完成した岩風呂も見逃せない。裏山のダイナミックな岩山を借景にした岩風呂だ。麦飯石のろ過水を使用した湯につかり、料理を味わえば、都会生活の疲れなど吹き飛ぶ。

 

 

 

 

きぐすりや
京都府南丹市美山町鶴ケ岡今安8−1
TEL:0771-76-0015





「美山Futon&BreakFast」1日1組限定。新スタイルの宿泊形態

国の登録無形文化財にも指定されている「F&B本館」。露地やお茶室まで備えたかつての豪農の館に泊まる喜び。 国の登録無形文化財にも指定されている「F&B本館」。露地やお茶室まで備えたかつての豪農の館に泊まる喜び。

国の登録無形文化財にも指定されている「F&B本館」。露地やお茶室まで備えたかつての豪農の館に泊まる喜び。





現代的な感性で、かやぶきの情緒に浸る
「美山Futon&Breakfast」

 

 

「かやぶきの里」の近くには、かやぶき民家一棟を1日1組限定で貸し切ることができる、朝食付きの宿が4棟点在している。「美山Futon&Breakfast」と名づけられたこれらの宿は、昔ながらの佇まいそのままの古民家から、広い庭にウッドテラスを設けたモダンな雰囲気の棟まで、趣や収容人数もさまざまだ。

 

 

なかでも、「F&B本館」とネーミングされた建物は、国の有形登録文化財にも指定された、築150年を超えた茅葺屋根の建物だ。土間を通り抜けると、そこは広い板の間で、中央には囲炉裏が切られ、火を熾すこともできる。畳の部屋は主に8畳と4畳半の2つ、襖で仕切れば3部屋にもなる。





大きな囲炉裏が切られている板の間。食後はこの囲炉裏を囲んで寛ぎのひとときを過ごす。 大きな囲炉裏が切られている板の間。食後はこの囲炉裏を囲んで寛ぎのひとときを過ごす。

大きな囲炉裏が切られている板の間。食後はこの囲炉裏を囲んで寛ぎのひとときを過ごす。

 




水回りの機器やキッチンツールなどは、最新の設備が備えられ、自炊も不自由なく行うことができる。 水回りの機器やキッチンツールなどは、最新の設備が備えられ、自炊も不自由なく行うことができる。

水回りの機器やキッチンツールなどは、最新の設備が備えられ、自炊も不自由なく行うことができる。





すき焼きセットのケータリングや出張寿司屋台も可能

 

 

8名もしくはそれ以上も場合によっては可能なこの建物、キッチンの水回りや調理器具は最新のものが完備され、食器類もふんだんに備わっているので、大人数での自炊も可能。すき焼きセットのケータリングはもとより、出張での会席料理や寿司屋台まで手配できるという贅沢なオプションも準備されている。

 

 

建物の周囲は、少し離れて建つ民家と水田のみ。囲炉裏脇に座り、じっと耳を澄ませていると、茅葺の屋根の息遣いが感じられそうな、そんな気配さえしてくる。「かやぶきの里」を散策した後は、ぜひこんな宿で一夜を過ごしてみたい。















Text by Masao Sakurai
Photography by Makoto Itoh


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