健康へのこだわりや信仰上の理由、また信条などで、食べることに対して制限をもうけている人たちが増加している。バリアフリーレストランとは、食に対するこだわりをバリアととらえるのではなく、おいしく楽しむことを提案するレストランだ。食は、ライフスタイルの多様化やグローバル化など「今」を映すもの。オーガニック、ハラルフード、低糖質&低カロリー、ベジタリアンの4つのカテゴリーから3店ずつピックアップ。東京のバリアフリーなレストランを紹介していく。
「さいめ」は、神楽坂駅から歩いて数分の隠れ家のような店。看板はなく、窓に置かれた小さな名刺が目印だ。店内に無駄なものはなにもなく、必要最小限のものだけ。店主の嶋田寛元ワールドが広がっている。料理は10品のコースのみ。野菜8品とおかゆ、それに鳥取県産の魚の干物、または埼玉県産の黒豚という構成。酒はパトリック・デブラのビオワインとジュリアン・フレモンのシードル、島根県出雲の板倉酒造の日本酒のみだ。扱う野菜は完全無農薬、それも埼玉県内の数件の農家のものだけに限定している。最低でも月に1度はそれらの農家に足を運び、畑仕事を手伝ったり、情報交換したりする。
無農薬というだけではこの店の料理の旨さを語ることはできない。無農薬、有機栽培という括りのなかでも、作り手によって、野菜の性質はさまざま。虫が付かないように、草が生えないように徹底的に手をかけて育てる人もいれば、作物が本来持っている力を信じて、なるべく手をかけずに自然に任せる人もいる。害虫や雑草のリスクはあるが、その分パワフルな作物ができるのだ。味付けは何もしないか、塩、味噌かほんの少しの醤油のみ。調理は土器を使って、焼いたり、ゆでたり、蒸したりする。独特の熱伝導の土器は、空気穴が多いため、金属の鍋のようにぶくぶくと煮立ったりせずに、優しくゆっくりと素材に火を通していく。
土器を使ってじっくりと火を通したナスは皮と身が一体化して丸ごと食べられる。
いつも通っている埼玉県内の農家から仕入れたナスは、生でも食べられる最高傑作だという。
仕入先の農家をリスペクトし、その素晴らしい野菜の力を最大限に引き出すのが自分の役目だという。野菜には極力、刃を入れない。この日もナスを丸のまま土器の破片に乗せて火にかけた。刃を入れると野菜の味が変化してしまうためだ。こだわりの店は数あれど、ここまでストイックな料理人は少ない。会話を交わすたびに感心しつつも、少し変わり者の域に入っている気もしてくる。
日本酒は島根県出雲市の板倉酒造の純米造り「天穏」で揃えている。
若くして独自の世界を作り上げ、食への想いがどこまでも熱い店主の嶋田寛元。
オクラは大きめの土器の鍋で、何ともいえず優しい味わいにゆで上げる。とろけるほど柔らかくなったオクラは何の抵抗もなく噛み切れるが、味わいは強く、しっかりとした旨みが堪能できる。ゆでて少量の醤油をからめただけというモロヘイヤもえぐみは皆無。厚みがあって、少しトロリとした葉は驚くほど美味しい。この店で食べる料理には、今までの野菜の概念を変えるほどの強いインパクトと感動がある。
(敬称略)
さいめ
東京都新宿区納戸町33 平野ビル ガーデンヒルズ市ヶ谷101
090-9813-9980
18:00~23:00
日曜
ディナー5,000円(税別)
https://www.facebook.com/saime515/
Text by Yuka Kumano
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