入学式に桜。ひと昔前の風景が戻ってきたかと喜んでいたら、翌日は無情の雨。「……桜終はらす雨を見ている」と、現代の女性歌人は詠いましたが、平安時代の女性たちも同じ気持ちで、雨に散る桜を見ていたのかなと、ちょっとおセンチなM男です。
女性の数だけ喜びと悲しみがある。前回のブログでそう書きました。まひろをはじめ、その「悲しみ」がいっそう強調されたのが、今回の「#14」でしたね。いったい、何人の女性の悲しみが出てきたことやら……。
45分間のなかで描かれた
数えきれないほどの切なさと悲しみ
まず、まひろ。「倫子の家に行ったら、元カレに遭ってしまうのに」とハラハラしていたら、案の定というか、ドラマだから当然というか……。
倫子も、道長との間にひんやりとしたものを感じ始め、その原因がまひろだとは思わず、明子のせいだと思っているふしもあり、明子は明子で、望み通り兼家を呪い殺したものの、お腹の子まで流してしまい、加えて道長のことを憎からず思い始めた様子。なんとなくこのあたり、不倫ドラマっぽい雰囲気。それはそれで悪くなく、むしろ面白いけれど。
道兼の北の方は愛想を尽かして家を出、天真爛漫かと見えた定子も、姑のいじめで何やら恨めしそうな顔。まひろの家では、乳母のいとが、おいおいと泣くし、字を習いに通っていた女の子が、父親に叱られる場面も切ない。道綱の母だって、今さら「いかに久しきものとかはしる」と兼家に言われても、本当は「遅ぇーよ」と言いたいところなのではないでしょうか。
あの不思議ちゃんききょう(清少納言)も、じつは悩みを抱えて……。45分の間に、数えきれないほどの悲しみが、次から次へと出てきました。でも、きっとそれがドラマの狙いなのでしょうね。ただひとり元気なのが、詮子というのもなかなか面白いし。
「君」へ注がれるのは愛情だけにあらず。
憎しみや悲しみもまた
そこでふと思ったのは、タイトルの「光る君へ」は、何も「君」へ注がれる愛情や思慕だけでなく、「君」つまり「男」へは憎しみも悲しみも注がれるという意味での「へ」だったのでは、ということ。「君」は勝手に光っているかもしれないけれど、その陰では大勢の女の涙があるよ、ということかも……。
畳の上で死ねない兼家。
あえて、ロクでもないない死にざまに?
兼家の最期は衝撃的でした。畳の上では死なせなかったのはなぜ? 一筋縄でない男は、やはり一筋縄でない死に様、厳しく言えばロクな死に方をしない、ということを物語りたかったのでしょうか。歴史書に書かれていたことを再現したのでしょうか?
あんな庭先で死んじゃって、道長の腕に抱きかかえられた時は、死後硬直してるんじゃないの、と変なことまで考えてしまいます。そして、そういえば、マーロン・ブランドもアル・パチーノも、ベッドの上でなく屋外で独り寂しく死んでいったなぁと、またぞろ『ゴットファーザー』を思い起こしていました。
兼家を抱きかかえた、道長こと榎本佑さんの演技も凄かった。悲しみの前に浮かべた一瞬の憤怒ともとれる険しい表情。あれは非道を究めた父への怒りだったのでしょうか……。でも、その後は亡骸を抱きしめ慟哭。このとき、藤原家の権勢を守り続けることを、彼は誓ったのでしょうね、きっと。
次回は石山寺が登場。なぜこのタイミングで?
道兼もしぶとく復活してそう
定子が中宮となるのが990年。道長の娘である彰子が、一条天皇の中宮となるのが10年後、紫式部が『源氏物語』を書き始めるのが、その2~3年後と言われています。まだ10年以上も先。その間に父の任官とともに越前へ行き、結婚し、子どもを授かり(道長の子ではないかとN子さんは推測)、夫とも死別。まだまだ先は長そうです。
でも、次回予告では、ちらりと石山寺が登場していました。紫式部が『源氏物語』を執筆したといわれる石山寺が、どうしてこのタイミングで? (そもそも、いつから「紫式部」と呼ばれるようになるのでしょうか? もしかしたら、ずっと「まひろ」のままということもあったりして……)ネズミに齧られてこのままおさらばかと思った次男の道兼も、またまたしぶとく出てくるではありませんか!
史実通りに進むなら、兄・道隆の長男・伊周と道長との確執が始まるころ。またまたドロドロの権謀術数の世界が繰り広げられるはず。こんどは道長が渦中そのものです。しばらくは、まひろとの距離は縮まらないままなのでしょうか?
桔梗のぼやきシーンで流れた音楽は
『阿修羅の如く』とそっくり!
最後に、苦言と、笑えたことをひとつずつ。
苦言は、秋山竜次さんが演じる、蔵人頭・藤原実資が登場するシーンを、イロモノ的にしないでほしい、ということ。お笑い的な演出にせずごく普通のシチュエーションにしておけば、存在自体がすでに異彩を放っている秋山さんですので、そのままでも十分面白いのに。このところなんだか実資の場面だけ「ウケ狙い」で、滑っているような気がします。実資はとても長寿の人だったそうなので、これからも出番はちょくちょくあるはず。まひろの従者・乙丸こと矢部太郎さんとともに、ごく普通の設定でお願いします。
笑えたのは、ききょう(清少納言)が、夫との不仲をぼやいている場面で流れた音楽。向田邦子さん原作の名ドラマ『阿修羅の如く』のテーマ音楽とそっくりではありませんか!『阿修羅の如く』でも、家族間の揉め事の場面で、可笑しみと悲しみと切なさが入り混じった、今回と同じ雰囲気の音楽が流れていました。名作へのオマージュ? だとしたら、秋山竜次さんのキャスティングといい、NHK様もなかなかイキ、イマドキの言葉でいえば、攻めているではありませんか!!
「光る君へ」言いたい放題レヴューとは……
Premium Japan編集部内に文学を愛する者が結成した「Premium Japan文学部」(大げさ)。文学好きにとっては、2024年度の大河ドラマ「光る君へ」はああだこうだ言い合う、恰好の機会となりました。今後も編集部有志が自由にレヴューいたします。編集S氏と編集Nが、史実とドラマの違い、伏線の深読みなどをレビューいたしました!
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