アカデミー賞ダブル受賞の快挙に喜びつつ、「小津調」がダメだったので少しがっかりのM男です。今週はまさにシネマウィーク。過去の映画も引き合いに出しつつ、今回の「言いたい放題」です。
ついに一線を越えた、まひろと道長。あまりにも濃厚で……。
いやぁ、濃い~45分でしたね。見所満載!
それにしても驚いたのは、道長とまひろが一線を越えたこと。たとえ越えたとしても「御簾の影で」とか「後朝の場面」という、思わせぶりな描写なのでは……。そんな生ぬるい予想を遥に超えた衝撃的なシーンでした。
打ち掛けの下に纏っていた緋色の着物(江戸時代以降ならば襦袢?)も艶やかに横たわるまひろを、一瞬真俯瞰で捉えたときなど、『陽暉楼』か『鬼龍院花子の生涯』かと思いましたよ、ほんとに。おまけに、その直前は濃厚なキスシーン。
思い返せば、『どうする家康』でも、家康と瀬名(有村架純さん)がいきなり初回でキスしてたけど、あれはほんの軽い感じ。今回は長かったもんな~。
子どもと一緒に見ていたお父さんやお母さんは、さぞ困ったでしょうね。いや、ネットにあらゆる画像が流れている時代に生きる昨今のお子ちゃまは、こんなシーン慣れているかもしれませんね。
よき政(まつりごと)のためには悪事にも加担
NHKらしからぬ、「攻めた」シーンの興奮はさておき、愛が成就しなかった道長は、「よき政(まつりごと)をする使命を果たしてください」というまひろの懇願を受け、「よき政」をする大儀のために、小悪には眼をつぶるという、いわば免罪符を得たのでは。
最初のころは、浮世離れしたのんびり三男坊として描かれていた道長は、次第に権力闘争に巻き込まれ、父親の片棒を担ぐようになります。でも、それは悪ではなく、右大臣家が権力を掌握し、道長がまひろのために「よき政をしていく」というステップのひとつ。
道長の権力把握のエネルギーは、すべてまひろのためという構図が、ここに来てしっかりと刻み込まれたのです。
しかも道長は、「振ったのはお前だぞ」とも言いました。つまり後々、「あの時おまえが俺の頼みを聞いていてくれさえすれば、こんなことはしなかった」と言う資格を、道長が得たということです。
まひろのために権力闘争の渦中にいながらも、その実は「こんな俺じゃない」と、自分を振ったまひろを絶えず想う。そして、直秀を死にいたらしめた悔恨に絶えずさいなまれる。道長、なんと屈折していることでしょう!
この鬱屈したエネルギーが、やがて訪れるであろう道長、まひろ、倫子との三角関係でどのように現れるのか、あるいは、まひろが『源氏物語』を書くモチベーションにどのように関わってくるのか……。これは見物(みもの)です。物語に深みと陰影が出てきました。
新説! 「光る君へ」は「ゴッドファーザーPart1」にそっくり
花山天皇はまんまと騙されてしまいましたね。しかしそれにしても、謀議を企む右大臣家の面々。怖いですね~。この雰囲気、どこか似たようなやつを観たことあるぞ~ と記憶を遡ってみると……。
そう、これはかの『ゴッドファーザーPart1』に、似ているではありませんか!ドン・コルレオーネの執務室(?)に手下のマフィアたちが顔を揃えた時の雰囲気です。
醬油顔的悪役の段田安則さんと、かたやバターこってり系の強面(こわもて)マーロン・ブランド。藤原家の場合は、詮子(吉田羊さん)という女性が加わっているのが、マフィアと少し違うけれど、詮子だって相当恐いし。
道長とマイケル(アル・パチーノ)とは共通点がいっぱい
あれれ、家族構成も似てるぞ。道長もアル・パチーノが演じたマイケルも三男だし、姉が一人いるのも一緒。最初は清廉潔白な良心の人だったのが、上の二人の兄が死に(『ゴッドファーザー』の場合は、二番目の兄はマイケルが殺すけれど)、やがてファミリーのドンとして君臨していくところも同じ。
さすがにマイケルほど道長は冷酷にはならないでしょうが、知的で時折見せる冷たい顔は、アル・パチーノもそうで、やっぱり二人ともただものではない雰囲気。
そもそもが、天皇の外戚となって権力を振るう藤原家と、名付け親となって影響力を及ぼすコルレオーネ家という構図がそっくり。マシンガンは出ないけど、いざとなったら敵を殺すのを厭わないのは、藤原家も同じ。兼家は道綱に「三種の神器(放映では「剣璽(けんじ)」と言ってました)を運び出すところを見られたら殺せ」と言ってましたからね。
※ここでN子の注。実際、脚本家の大石静さんは制作発表会で、「華麗なる一族」と「ゴッドファーザー」みたいな作品になる!と発言されているそうです!ズバリ!
まひろと道長の濃密シーンは今回だけ?
さて、前回の「言いたい放題」で、N子嬢が「私たちは源氏物語エピソードゼロ」を見ていると書いていましたが、まさしくその通りで、まだ肝心の『源氏物語』の「げ」の字も始まっていません。
ただ、今回の放映で、かなり深い部分での『源氏物語』との通底が提示されたような気がします。
源氏物語で描かれる光源氏の華麗な女性遍歴は、裏を返せばあてどない魂の彷徨であり光源氏は藤壺の幻影を永遠に追い求める哀しい主人公です。道長も、まひろを永遠に思い続け、さまよう魂を胸に秘めながらも俗世と折り合っていく、哀しいヒーローになっていくのではないでしょうか。
そう考えると、道長とまひろが結ばれるのは、今回だけのはず。もう濃密シーンはないのかな? 下世話な興味はさておき、今後がメチャ楽しみです。
「光る君へ」言いたい放題レヴューとは……
Premium Japan編集部内に文学を愛する者が結成した「Premium Japan文学部」(大げさ)。文学好きにとっては、2024年度の大河ドラマ「光る君へ」はああだこうだ言い合う、恰好の機会となりました。今後も編集部有志が自由にレヴューいたします。編集S氏と編集Nが、史実とドラマの違い、伏線の深読みなどをレビューいたしました!
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