パティシエとともに、日本でも浸透しつつある言葉、ショコラティエとは、フランス語でチョコレート職人を意味する。いまや世界で認められている、感性豊かな日本のショコラティエ。日本のチョコレート文化を育み、進化させるショコラティエを紹介する。
コロンビア産カカオに杜仲茶のスモーキーな香り。日本らしさを自分らしく表現。
パティスリーで修業後、「テオブロマ」土屋公二のもとでチョコレートを学び、出身地の愛知県に戻って、名古屋にショコラトリーを開いたのが2015年。若きショコラティエ、高須聡の快進撃は続き、2017度にサロン・デュ・ショコラ パリに初出展すると、C.C.C.(フランスショコラ愛好会。セーセーセーと呼ばれている)から銀賞を、翌年には金賞を授与され、2019年には同展で「ベストショコラティエ100」に選ばれた。2018年には銀座店もオープンした。
外国人の観光客も多い銀座では和を打ち出している。というのも、サロン・デュ・ショコラを機会に世界に出ると、日本人らしいものを求められることが多くなったからだ。「もともとヨーロッパ好きで、修業時代も和素材にほとんど触れていないので、独立して初めて使うようになりました。その代わり、先入観なく和素材に取り組めたのがよかったです。まず銀座店のために選んだのが杜仲茶です。あまり知られていませんが、杜仲茶は日本古来のもので、広島県で昔から栽培している方ご紹介いただいたのがきっかけです」。浮世絵風のイラストをパッケージにした「高須しょくらあと」は、カレ(正方形の小さなタブレット)タイプのチョコレート。コロンビア産カカオ豆でできたミルクチョコレートにお茶の渋みとスモーキーさが見事に表現されている。


広島県因島で完全無農薬栽培した杜仲茶とコロンビア産カカオを使ったミルクチョコレートの組み合わせ。世界で求められる「日本人らしさ」を、海外でも活躍する芸術家のOZ-尾頭-山口佳祐デザインのパッケージと味の両方で表現した「高須しょくらあと」1,300円(税込)
「コロンビアにカカオ豆の農園を訪ねたとき、ボリュームがあってふくよかな香りが、少し薬を思わせる杜仲茶独特の香りと結びつきました。出来上がってみると、甘いチョコレートの味わいが最初に来て、次にお茶の風味、そして最後にまたチョコレートの余韻を楽しめるものになりました」。約200種類のチョコレートを使い分けていたときもあったという彼は、まぎれもなく”チョコレートファースト“の作り手。つまり、チョコレートからアイデアを広げていくタイプだ。本人はアーティストの楽曲づくりになぞらえ、「自分は作詞から始めるタイプ」だと言う。思いを伝える部分(作詞)がチョコレートから発想、あとからメロディー(他の素材)を合わせていくといことだろう。
「Nadeshiko」は、昨年話題となったルビーチョコレートがインスピレーションとなったボンボン・ショコラだ。「どのように生まれたかまだ謎の多いチョコレートですが、軽い発酵風味があって、組み合わせる素材はまず酸味のあるイチゴなどが浮かびました。ですが、ずっと使いたかった素材を思い出したのです。それが梅干し。ビター、ミルク、ホワイトチョコレートを合わせてみましたがしっくり来ず、ルビーを合わせてみると味がまとまりました」。キリッとした酸味と塩味は確かに梅干し。ヨーグルトのような酸味と適度な甘みのあるチョコレートが、エキセントリックな酸味をマイルドなコントラストに落ち着かせている。
実はパティシエの修業時に小麦粉アレルギーになってしまった。やむなくチョコレートの道に進んだのだが…。「今はチョコレートを選んでよかったと思います。チョコレートは魅力的な素材で飽きることがありません。発酵、焙煎、乾燥、コンチング、それぞれの工程でナッツやフルーツ、タバコのような香りが生まれるのです。なにより、ひと口食べるだけで心にグッとくる味わいがありませんか?」。
産地へ足を運ぶことも多く、知らない土地で味わう開放感や土地の食材からインスピレーションを受けるのは楽しい。ビーン・トゥー・バーももちろん考えている。「自分の選んだカカオを発酵や焙煎をコントロールし、オリジナルチョコレートを作るのはひとつの目標です。でも、豆を日本に持ってきては価格も高くなってしまい、産地に還元できません。やるなら、産地でチョコレートにする工程まで済ませる方法で。産地の雇用などに貢献できるのではないかなと考えています」。場所はコロンビア。実は来年にも実現しそうだという。


杜仲茶、梅干しなど、ユニークな和素材をあやつる高須聡シェフ。カカオ原産地への還元などにも思いを馳せている。
(敬称略)
ショコラトリータカス 銀座店
東京都中央区銀座7-7- 12 圭田ビル1F
13:00~23:00
日曜定休
Photography by Haruko Amagata
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