誰もが一度は教科書で目にしたことがある、国宝の「舟橋蒔絵硯箱」をはじめ、国宝や重要文化財の刀剣、漆工作品、茶碗がずらり。東京国立博物館 平成館で開催されている特別展 「本阿弥光悦の大宇宙」は、17世紀の天才クリエイター、本阿弥光悦の作品が一堂に会した、必見の展覧会です。
「舟橋蒔絵硯箱」の圧倒的なボリュームは実物ならでは
以前、とある雑誌で「光悦特集」を企画したときのこと。
光悦を特集するならば、やはり国宝の「舟橋蒔絵硯箱」でしょうと、新規撮影をすべく、東京国立博物館に撮影許可を申請したものの、あっけなく断れられ、その代わりと押しいただいたのが、作品を撮影した画像(当時はポジフィルム)でした。悔しい思いをしましたが、考えてみれば国宝ですから、おいそれとお蔵から出てくるわけもなく……。
それから幾星霜。東京国立博物館 平成館で1月16日から始まった特別展「本阿弥光悦の大宇宙」では、その「舟橋蒔絵硯箱」がお蔵からお出ましになり、会場入り口に、厳かに鎮座しています。まさに御開帳、圧倒的な存在です。後光が差しているのでは、と思うほど。間近で見ると、実物はこんなに大きくて、こんなに膨らんでいるのかと、まずそのボリュームにびっくり。優美に輝く豊穣の黄金と冷たく硬質な光を放つ鉛の板、その両者を柔らかく結びつける流麗な筆跡とたおやかな曲面。「光悦サマ、よくぞお作りになった」と、ひたすら感謝感激です。
報道内覧会で、筆者もスマホで撮影にトライ。全体的な立体感は公式画像より優れているのでは……、と自画自賛。「国宝 舟橋蒔絵硯箱 本阿弥光悦作 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵」
全長13メートルの絵巻! 日本美術の真髄ここにあり
この「舟橋蒔絵箱」だけではありません。本阿弥家の家業である刀剣鑑定を経た名刀にはじまり、扁額、書、漆工作品、茶碗と、天才が放った縦横無尽の足跡が、これでもかと展示されています。
そのひとつが「舟橋蒔絵硯箱」と並ぶ圧巻、重要文化財の「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」。俵屋宗達が下絵の鶴を描き、そこに光悦が三十六歌仙をしたためた、なんと13メートルもの長さの巻物です。
その巻物の最初から最後までが、ずずずいっと展示されています。波を描くように群れ飛び、やがて降り立つ何百羽もの鶴が見事ならば、無数の鶴と呼応し、歌い踊るかのような光悦の筆跡もまた見事。端から端まで鑑賞しながら歩くと、陶然たる心持になってきます。ちょっと大袈裟かもしれませんが、「日本美術の真髄ここにあり」と、言いたくなります。
全長13メートル。鶴の飛翔をゆっくり辿っていくと、なんだか華麗な交響曲が耳元で奏でられているような……。「重要文化財 鶴下絵三十六歌仙和歌巻(上下の画像とも部分)本阿弥光悦筆/俵屋宗達下絵 江戸時代・17世紀 京都国立博物館蔵」
あの名碗がずらり。茶の湯の奥深さに触れる
こんなお茶椀で一服いただいたら、さぞ美味しかろう。歴代の所有者たちが羨ましい。 「重要文化財 赤楽茶碗 銘 加賀 本阿弥光悦作 江戸時代・17世紀 京都・相国寺蔵」
最後の展示室にずらりと並ぶ茶碗も「素晴しい」、の一言に尽きます。何もかも吸い込むかのような黒楽茶碗と、一転して華やかな赤楽茶碗。同時代に京都で作陶していた、樂家三代の道入とも親交があったという解説を読み、なるほどと納得。江戸の初期、京都に住む二人の稀代のクリエイターが、お互いに行き来していたなんて、そしてもしかするとそこに俵屋宗達も加わっていたかも……。想像するだけで楽しいではありませんか。
特別展「本阿弥光悦の大宇宙」、ぜひ足をお運びください。3月10日までです。音声ガイドのナビゲーションは俳優の中谷美紀さん。しっとりとした麗しいアナウンスに気を取られていると、肝心の作品解説を聞き逃しがち。ご注意ください。
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