旨いナポリタンは、意外に少ない
東京で選び抜いた3選はこれだ!
この度、3店を選ぶために、ナポリタンで名を馳せる店にでかけ片っ端から食べてみたが、意外にも、こりゃアカンというところが多いのである。それはいかにケチャップを処理するかに尽きる。ケチャップが多く、かつ炒め方が弱いと、クドいし酸味ばかりが際立って、ツーンッと来るのだ。
具は細切りで炒め、適正な量のケチャップを加えてちょっと焦げるくらいまで炒めて酸味を飛ばしてくれないと、甘味のある旨いナポリタンにはならない。ナポリタン、実は難しいゾ。そうした難しさの中で、以下の3軒は三者三様となった。
(ちなみに落選した店を挙げておく。△五反田「プランタン」、△神保町「コーヒー&スナック L」、△神保町「ランチョン」、△麻布十番「グリル満天星」、×池袋「スパゲッティー パンチョ」、×銀座「ジャポネ」、×神保町「さぼうる2」、×日本橋「たいめいけん」)
大手町サラリーマンの聖地「リトル小岩井」
メシ時の激混みだけが玉に瑕
まずは、ジャンクの王様から始める。大手町で働くサラリーマンは幸せだ。そこに「リトル小岩井」があるから。
筆者は10年くらい前にハマって、何度も通ったことがあった。今回、久しぶりに行ってみたが、何も変わっていない。変化したのは「キムチクリームスパゲッティ」とか「デミホルモン ピリ辛スパゲッティ」なるメニューが増えていたことくらいか。あ、値段も2023年11月から変わった。それまでは570円だった!各種スパゲッティが100円アップした。それでもこのご時世で670円なのだ(おすすめスパゲッティは720円)。なんという偉大な店なんだ。
リトル小岩井、創業は昭和33年。小岩井乳業とは無関係である。東京じゃ、銀座の「ジャポネ」とロメスパ(路面+スパゲティ)界の二大巨頭と並び称される。ちなみにジャポネの創業は昭和55年と後発で、一説によるとリトル小岩井で研鑽を積んだ料理人がジャポネを作ったようだ(ちなみに筆者は「ジャポネ」はいま一つだった。全体的にもう少しキレイだとよい)。
メシ時はハズすのが鉄則である。11:30に行ったら店内満席で15番目だった。ここの料理人には誰もが敬意を抱かざるを得ないだろう。なにしろ、正午を挟んで3時間くらいは、まったく休む間もなくフライパンを振り続けているのだ。料理人は3人いるが、鍋を振るのは交代制なのだろう。そうしなきゃ、10時間ぶっ続け筋トレみたいになっちまう。そうじゃなくても、きっと腕の筋肉は相当なモンだろな。


最初にキャベツの角切りサラダの小鉢が漏れなくついてくる。これがあってもなくてもどうでもいいような感じ(苦笑)。そう思ったのは10年前と同じ。変えるつもりはないんだね。一応、サラリーマンの健康を考えてサラダも食いなさいという親心なんだろうが、あまりにも量が少ない(笑)。
そんで、実食。いや~、やっぱり旨えわ。ジャンクな味がタマラン! 何といっても、このうどんのような太目で柔らかい麺が見事だ。クセになる。アルデンテの麺? そんなモンいらんでしょ、日本料理なんだから。そして、味も実にマイルドだ。東京でナポリタンと名がつくスパゲッティの中で、いちばんまろやかな味かもしれん。
使っているのはおそらくバターではなく、マーガリンかもね。具はベーコン、玉ねぎ、ピーマン、マッシュルームだ。安っぽ~い粉チーズとタバスコもあるが、元のままでいいかも。食べている時に耳に入ったんだが、「アブラ少なめ」と頼む客がけっこういる。あたしゃ、アブラは気にならなかったけどね。
パスタとサンドイッチの店であるから、テイクアウト窓口も客が途切れることがない。持ち帰りパスタとサンドイッチの注文の割合は6:4てなとこかな。てりマヨハンバーグサンド、ガパオ風サンド、ツナチーズサンド、どっさりフルーツサンド……どれも実に旨そうだ。表彰したいくらいの店だ。


リトル小岩井
東京都千代田区大手町1-6-1大手町ビルB2F
℡03-3201-2024
テイクアウト:7:00~20:00
店内:10:00~20:00
定休日:土日祝
ナポリタン 670円
塩ベジタブル 670円
醤油バジリコ 720円
きのこバター 720円
(大盛りは100円増し)
てりマヨハンバーグサンド 320円
ガパオ風サンド 300円
浅草で洋食と言えば「ヨシカミ」
最高に和む雰囲気で食事も楽し
続いて中庸の王者から。「うますぎて申し訳ないス!」のコピーで知られる浅草の洋食屋だ。創業は昭和26年と終戦後間もなく。息の長い店っていうのは、特に晩メシ時には馴染みの地元客がいるから雰囲気がいいのである。このヨシカミもそうで、わいわいと楽し気な客たちはいかにも善男善女で、目つきが悪いのは筆者ぐらいだ(笑)。フロア係と馴染み客とのゆるい会話が、他の客たちを和ませる。オープンキッチンのシェフたちは真剣だが、フロアは凪いだ空気が流れている。給仕のお姉さんたちも普段着のところがいい。
さて、ガスコンロの真ん前のカウンター席に通された。目の前でナポリタン作りの一部始終を眺められるのは稀有だ。最初にハムと玉ねぎとマッシュルームを、油をひいたフライパンに入れ、しばらく炒めたところで、麺をガバチョと掴んで放り込む。フライパンを振り、塩コショウをした後に白ワインとウスターソースを少々、そしてケチャップを投入するのだ。茹でたインゲンを加え、充分にあおって完成だ。このライブ感がいい。


麺はもちろん柔らかい。充分に炒めているので酸味と甘味の塩梅がちょうど良い。粉チーズがちょっと振ってあるから、何かを加える必要もなく出来上がっている。どちらかと言えば淡白な味わいだ。一つだけ指摘するなら、最後に加えたインゲンは絶対的にピーマンを炒めた方がいい。茹でたインゲンは水っぽいからだ。それ以外は申し分がない。要は、一品料理とジャンクの中間ぐらいに位置するナポリタンということだろう。


「ヨシカミといえば、シチューかステーキでしょ」みたいなチラシが店の外に貼ってあったので、ステーキも頼んでみた。ニンニク醤油がたっぷりとかけられ、ヒレ肉はとても柔らかく旨かった。値段が実に良心的である。浅草庶民に愛された店だ。


ヨシカミ
東京都台東区浅草1-41-4
℡03-3841-1802
11:30~21:30(L.O.21:00)
定休日:木曜
スパゲティナポリタン 1300円
牛ヒレのステーキ(150g) 4000円
ビーフシチュー 3000円
洋食で最高の格式を誇る「香味屋」
ナポリタンは上品この上ない
最後は、上質な一品料理だ。かつてオムライスNo.1として登場した店である。この店に来るといつも、なんか清々しい気持ちになるんだな。店全体の清潔感が人をそういう気持ちにさせるんだろう。サービスも親切でソツがない。常連客のジイさんバアさんの無駄話にも、快く応じている。人情味があるんだね。ジイさん一人とか老夫婦の馴染み客が多いのもそれが理由だと思う。
注文してから料理を待つ間に、「よろしければ、どうぞ」なんて言って『味の手帖』をテーブルに置いてくれたりする。総じて決して安くはないが、そうしたサービスも値段に含まれていると思えば納得がいくだろう。
ナポリタンとはどちらかと言えばジャンクで下品な食べ物なのかもしれん。しかし、「香味屋」の手にかかると、まー、上品になってしまうんだよねー。


具材は、玉ねぎ、ピーマン、マッシュルーム、みじん切りのロースハム、プリプリの海老で、最初からパルメザンチーズがかけてある。色を見ればわかるし、味わえば一層わかるが、自家製のケチャップに相違ない。酸味が少なく、とてもさっぱりしている。いわゆる市販のケチャップを使ったものと違って、独自のナポリタンと言ってもよかろう。
他にはない味だ。まー、こういう上品さも乙なもんだ。喫茶店のジャンクな感じよりも、一品料理の佇まい。ちょっと澄ましたご令嬢って感じすかね。アルデンテじゃないところも、「これはイタリアンじゃありませんわよ、ニッポンの洋食でございますので、悪しからず」とツンと身構えているように思えてくる。
値段も高いよ。なんせ、東京一の洋食屋だから。なんとなくナポリタン=1200円前後ぐらいの感覚があるが、ここのは2200円だ。それだけクオリティに自信ありってことやね。


今回は、ナポリタンの他に「メンチカツ」も頼んだ。おそらく東京で見るものの中で最も美しい。もちろん、間違いなく東京でいちばん旨い! 崩したくなくなるほど美しいカツにナイフを入れる。肉汁は熱くたぎっていて、「じゅぶ、じゅぶ、じゅぶ、じゅぶ~」と音を立てて、あふれ出てくるのだ。これは凄いぞ。デミグラソースは肉汁で薄まってしまうから、ウスターソースをかけて、和カラシをつけて食べるのである。うめぇ~(口のやけどに注意)。メンチカツの頂点、ここにあり!


レストラン香味屋
東京都台東区根岸3-18-18
℡03-3873-2116
11:30~22:00
定休日:毎週水曜日(祝日の場合は、翌日木曜日)
スパゲッティ・ナポリタン 2200円
メンチカツ 2200円
「これを食べなきゃ人生ソンだよ」とは
うまものがあると聞けば西へ東へ駆けつけ食べまくる、令和のブリア・サバランか、はたまた古川ロッパの再来かと一部で噂される食べ歩き歴40年超の食い道楽な編集者・バッシーの抱腹絶倒のグルメエッセイ。
筆者プロフィール
食べ歩き歴40年超の食い道楽者・バッシー。日本国内はもちろんのこと、香港には自腹で定期的に中華を食べに行き、旨いもんのために、台湾、シンガポール、バンコク、ソウルにも出かける。某旅行誌編集長時代には、世界中、特にヨーロッパのミシュラン★付き店や、後のWorld Best50店を数多く訪ねる。「天香楼」(香港)の「蟹みそ餡かけ麺」を、食を愛するあらゆる人に食べさせたい。というか、この店の中華料理が世界一好き。別の洋物ベスト1を挙げれば、World Best50で1位になったことがあるスペイン・ジローナの「エル・セジェール・デ・カン・ロカ」。あ~、もう一度行ってみたいモンじゃのお。
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