東大前・ビストロ ジョンジ東大前・ビストロ ジョンジ

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これを食べなきゃ人生ソンだよ

2024.3.28

モダン韓国料理なら東京イチ!東大前・ビストロ ジョンジを知らないなんて人生ソンだよ?







唯一無二のモダンな韓国料理を
「ビストロ ジョンジ」で食す幸福

 

 

今回紹介するのは、東京・文京区西片の「ビストロ ジョンジ」である。場所は、地下鉄南北線東大前駅のすぐそばだ。ビストロと言っても、モダン韓国料理の店である。

 

 






筆者の長年の疑問は、東京で韓国料理を食べると、大体が辛く真っ赤で、どこも判で押したように似たようなものしかないことだ。昨年ソウルで食べまくった時、バリエーションは豊かで、専門店が多く味は店によって異なり、ファインダイニングは繊細の極みだった。それらを感じさせる料理は、東京にはほぼない。もちろん、旨いマズイの差こそあれども、東京の店はどこも大同小異なのである。その疑問が一気に氷解したのは、「ビストロ ジョンジ」で食べたからだ。

 

なるほど、他の東京の韓国料理屋にはちゃんとした料理人がいないからなんだろうと思った。厨房に立つのは、特に料理の専門家ではない(たぶん)。つまり、定型の韓国伝統料理の味とイメージがあって、彼らはそれに近づけているだけなのだ。だから、どこに行っても驚きはない。エラそうですんませんけど、ひと言で言うと、大雑把な料理がほとんどだ。韓国に行ったら、そんなことないのに。とても残念だ。

 

私の結論は、極論するが、伝統料理ならば「チョンギワ新館」、そしてコリアンファインダイニングの「ビストロ ジョンジ」、この2軒を知っていれば事足りるということである。と言うか、何軒か原稿を用意はしていたのだが、「ビストロ ジョンジ」で食べたら、他の中途半端な韓国料理屋を紹介する気が失せちまったのだ。









繊細さと創造性を駆使した韓国料理が東京にあった!
それが「ビストロ ジョンジ」

 

昨年、筆者はソウルにある「Joook」と「Onjium」で食べて、大変な感銘を受けた。ともに、「Asia’s 50 Best」にランクインした店である(18位と30位)。その繊細さと味の振幅の広さと奥行き、そして創造性は大変なもんだと思った。もちろん、凄まじく旨い。食材がいい上に、一つ一つの素材の旨味を繊細な手技で最大限に引き出すのだ。なぜ、そういう韓国料理を東京で食べられないのだろうとずっと思っていた。

 

が、あったのである、「ビストロ ジョンジ」。なんてこった。なんで今まで行かなかったんだろう。これほどの後悔はない。この店の料理の数々は、伝統を掘り下げそこに革新を加えた料理を出す「Onjium」に迫るものだと思った。店名の「ジョンジ」は調味料などを入れる小さな器のことだ。唐辛子で真っ赤っかになった料理ではないことを、最初にお断わりしておく。









この店を作ったのは、韓国釜山出身のキム・スジン氏である。簡単な経歴を記すと、結婚・出産後に辻調理師専門学校で日本料理からフレンチ、イタリアンを学んだあとで卒業、韓国宮中料理の人間国宝・韓福麗氏の指導を受ける。韓国でワインレストランや菓子メーカーを立ち上げた後、大阪・東京の料理教室の講師を経て、2022年5月に文京区東大前に「bistro JONGJI」を開く。日本ソムリエ協会認定ソムリエでもある。

 

キム氏の何が凄いかと言えば、有機野菜を用いることは当然のこととして、調味料やソフトドリンクも出来る限り自家製で、発酵食品なども自前で作っていることだ。実に細かい手仕事を、手間暇かけて仕上げる。いや、こりゃ忙しいだろうなと思う。しかし、面倒なことを嬉々としてやれる――、ホンモノの料理人とはそういうもんだろう。

 

前置きが長くなった。今回食べたのは「初春メニューおまかせコース」である。




おまかせコースで、
シェフの手間暇かけた手仕事を食おうぞ!

 

最初に出たのが緑鮮やかな「菜の花のお粥」で、もちろん有機の菜の花に有機玄米を使ったものだ。味は濃くないが、胃に染みわたっていく感じ。これで、よっしゃ、胃袋は準備オッケーとなる。




アミューズ盛り合わせ アミューズ盛り合わせ

続くアミューズブッシュの「自家製韓国伝統薬脯(ヤクポ)」なるものが凄い。海苔の餅糊衣揚げ、香椿のコチュジャン餅糊衣揚げ、胡桃のじっくり揚げ、エビジャーキーの炙り、棗椰子にクリーム・チーズと松の実、揚げ干しタラの皮。揚げ物はパリっとしていて、塩気はジャスト、どれも味わい深い。向こうが透けるほど薄いビーフジャーキーがいい。棗椰子もクリーム・チーズと合わせたところが秀逸だ。いや、よくこんな面倒な品々を作るねー。料理への情熱を感じる。ちょっと衝撃を受けた。




前菜を撮るのを忘れたんだが、宮廷料理の「月果菜」と命名されたいわゆるナムルのようなものだ。しかし、一つ一つのパーツはおよそ普通のナムルではない。若かぼちゃ、牛肉、ブクミ(揚げ餅)、キクラゲ、椎茸、黄松の実。味付けは塩とごま油だけだが、一種ずつ味わった後に、全部をビビンバのように混ぜて食べるのだ。こんなナムルは初めての体験だ。極めて繊細な味付けだが、大好きかも。

 

実は、店主の一品ごとの解説が素晴らしい。こんな難しい単語を、もちろん韓国語なまりはあるが、スラスラと完璧な日本語で話してくれる。彼女の解説も、この店の非常に大きな魅力となっている。話が料理をより一層旨いものにするのだ。単に出されたものを食べるのとは、だいぶ違うぜ。料理を語る彼女の熱量がまぶしい。









サワラと牛肉 サワラと牛肉

次の魚料理もプチ・サプライズだ。宮廷料理をアレンジしたもので、焼いたサワラと味付けして焼いた和牛を交互に重ね合わせてある。和牛は韓国醤油とスパイスで味付けしてあるが、それはあくまでもサワラをよりおいしく食べるためにある。「一緒に召しあがってください。サワラの淡白な味がお肉によって濃く感じるようになっています」と店主は言う。付け合わせは三カ月熟成させた自家製の白キムチだ。自家製の白ムツで作った魚醤、アミエビの塩辛も加えたそうだ。唐辛子が入っていないのは、韓国に唐辛子が入ったのは17世紀以降なので、これは最も古いキムチの作り方なんだって。いやー、勉強にもなるなあ。サワラと和牛は、こんな韓国料理あったんだと思わせる驚きの一品で、これ、これ、こういう創意があってしかも旨いものが食べたかったのよ。






和牛すね肉の煮込み 和牛すね肉の煮込み

メインの肉料理は、和牛スネ肉の煮込み。銀杏、栗、韓国ナツメ、大根、人参の炊き合わせになっている。出汁と韓国醤油と玉ねぎの発酵調味料で煮込んだ牛が柔らかく味が深い。それぞれの副菜は別々に煮込んだものだという。韓国料理ではごった煮の醤油一色になるのだが、彼女は日本料理の炊き合わせの手法を使ったそうだ。だから、それぞれが素材本来の色と味を保っているのだ。


ここまででお分かりと思うが、「ビストロ ジョンジ」の料理構成はフレンチのコース料理を模している。そこに韓国の伝統料理や宮廷料理をベースとして、日本料理やフレンチなどのエッセンスをとりこんだ実に意欲的なものなのだ。これほど広範な料理の知識と技術を持ち合わせた韓国人の料理人は、おそらく日本には他にいない(であろう)。だからこそ、唯一無二なのだ。そんでもって頭デッカチで旨くもないんじゃあ本末転倒だが、どれもこれも旨いところがこの店の偉大なる所以だ。




うるち米のスープ うるち米のスープ

最後の食事は、トック(うるち米のお餅スープ)だが、昆布と煮干しと干し車海老でベースの出汁をとった正月料理だ。味付けは韓国醤油だけ。その周囲には三カ月熟成のキムチ、大根と春菊のナムル、作り立ての水キムチ、干しアミとクルミの佃煮、キキョウの根をコチジャンに漬けたジャンアチなどが、いわゆる「ジョンジ」に盛られてスープの大鉢を取り囲む。なんかな、食事の最後まで、体が内部から喜んでいる、そんな感じ。毎日ここで食べていたら、健康でいられそうな感じやな。





デザート デザート

デザートにも抜かりはない。イチゴ餅、イチゴ砂糖菓子、韓国産エゴマのおこし、黄松の実おこし、水正果(生姜、桂皮、干し柿)。飲み物は桂皮の韓国茶である。イチゴ餅をもう一度食べたいねえ。




ビバレッジの充実ぶりも凄い。ソフトドリンクは柚子、青梅、夏みかんなどを冷たい水で割るか温かいお茶にして飲む自家製ドリンク、多種のビール、彼女が選んだフランスワインのペアリングも楽しめる。酒を呑む人も呑まない人も飽きることがない。

 

およそ一カ月半おきにメニューは変わるという。次の新メニューは4月2日から。この人の料理なら、少なくとも毎回食べてみたい。そんな気にさせる店だった。そうだ、要予約のプルコギキンパは絶対に旨いに違いない。






「これを食べなきゃ人生ソンだよ」とは
うまものがあると聞けば西へ東へ駆けつけ食べまくる、令和のブリア・サバランか、はたまた古川ロッパの再来かと一部で噂される食べ歩き歴40年超の食い道楽な編集者・バッシーの抱腹絶倒のグルメエッセイ。

 

 



ビストロ ジョンジ外観 ビストロ ジョンジ外観

bistro JONGJI ビストロ ジョンジ
東京都文京区西片2214
TEL 070-8535-8642
定休日:月曜日
営業時間:12:0014:0014:3016:3017:0022:30
完全予約制(予約はホームページから)

初春メニューおまかせコース 12000
ハーフコース  6000



筆者プロフィール

 

食べ歩き歴40年超の食い道楽者・バッシー。日本国内はもちろんのこと、香港には自腹で定期的に中華を食べに行き、旨いもんのために、台湾、シンガポール、バンコク、ソウルにも出かける。某旅行誌編集長時代には、世界中、特にヨーロッパのミシュラン★付き店や、後のWorld Best50店を数多く訪ねる。「天香楼」(香港)の「蟹みそ餡かけ麺」を、食を愛するあらゆる人に食べさせたい。というか、この店の中華料理が世界一好き。別の洋物ベスト1を挙げれば、World Best50で1位になったことがあるスペイン・ジローナの「エル・セジェール・デ・カン・ロカ」。あ~、もう一度行ってみたいモンじゃのお。

 



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