はじめにお詫びし、お断りしておかねばならないが、筆者はラーメンの専門家ではない。片や全国を駆けめぐり、年間600杯以上も調査するような御仁がいる。筆者にラーメンを語る資格がないという自覚はある。
「一条流がんこ総本家」は食べたのか、もちろん「八五」は食べての上なんだろうなと、すぐに突っ込まれそうである。すんません、行っていません。この両店を経験したいのは山々だが、行き着くまでが難関すぎる。
とは言え、ラーメンは年に150杯は食べる。限られた体験店の中から、これだけは食べてソンはないと思う品だけを紹介しておきたい。なお、ラーメン好きにとっては、なじみのあるラインナップかもしれない。
伝説のラーメン屋「八五」プロデュース「中華そば勝本」(水道橋店)の「特製中華そば」
フレンチ仕込みのラーメン屋「勝本」
という流れからの「勝本」である。高級中華料理店「登龍」に続けて紹介する3軒は、いずれもラーメン専門店である。「登龍」とは立ち位置がぜんぜん違う。「ニラソバ」をどうしても押し込みたかったのでご勘弁いただきたい。
「勝本」は東銀座のもはや都市伝説と化したようなラーメン屋「
話が長くなった。
「勝本」は令和4年3月に赤字によって閉店した。同年5月に経営者が変わり、値段を上げて再開となった。
今回、経営が変わってから初めて訪問したのだが、筆者は「勝本」を甘く見ていた。お盆前のクソ暑いさなか、13:20到着でスッと入れるだろうと思ったが、待ちが15番目だった。ところが、親切この上ないお姉さんのスムーズな案内のお蔭で、さほど待たずに入れた。客の流れを良くするためのフロア担当が二人もいる。これは偉大なことだ。しかも、「お暑い中、来てくださってありがとうございます」と声掛けしている。なかなか出来ることではない。ウチは並ばれて当然という顔をしているすべてのラーメン屋に見習って欲しいもんだ。
まず、この店は、ラーメン屋とは思えないほど店内がきれいだ。寿司屋かカウンター割烹屋かと見紛うほどだ。店員の白衣もノリが効いていて美しい。そういうコンセプトのもとに作った店なのだろう。
シンプルなメニュー構成
やっぱり至高の絶品は「中華そば」
メニューは、「中華そば」「味玉」「特製」の三択のみである。かつては「濃厚煮干しそば」と「つけ麺」があったが、今はない。それは筆者にとっては一向に構わない。どちらも好きじゃなかったからだ。「煮干し」の濃さにも限度ってもんがあるだろうし、「つけ麺」のつけ汁には首を傾げた(一般論として、世にある「濃厚煮干しそば」はマズイと筆者は思うぜ。大事なのはバランスじゃね?)。
しかし、「中華そば」は至高の絶品である。と言うか、筆者が大好きな味だ。鶏、かつお節、
見た目の美しさ、味のバランスがトータルで素晴らしい。正統的なラーメンとしては、ほぼ完璧と言っていいだろう。食べ終えた後に深い多幸感に包まれ、ヨッシャーと元気が出るような、そんなラーメンである。経営者が変わっても、味は微塵も変わっていなかったことが嬉しい。通し営業をしている点もまことに素晴らしい。
中華そば勝本(水道橋店)
東京都千代田区神田三崎町2-15-5 三崎町SSビル1F
営業時間:11:00~20:00
定休日:日曜日、月曜日(不定休)
特製中華そば 1300円
味玉中華そば 1100円
中華そば 950円
各種大盛り 150円
麺とスープ、その旨さに仰天するぞ!「べんてん」の「ラーメン」
行列はご覚悟召されよ
それでも食べたい「べんてん」の「ラーメン」
行列することは、まず覚悟しなければならない。かつては高田馬場にあり、連日の大行列で大変な人気を博したという。閉店を大勢のファンに惜しまれたが、ある日、練馬区成増の裏通りに忽然と現れ再開した。
実は筆者は馬場時代を知らない。最初に成増を訪れたときにはその旨さに衝撃を受けた。醤油「ラーメン」である。近年、スタイリッシュラーメンが増える中で、見た目は、まー、武骨。味わい一直線で、何の媚びもない。ねじり鉢巻きをして作っているお父ちゃんそのもののラーメンだ。
まずは、自家製麺に触れなければならぬ。中太ストレートで、もっちり太いくせに滑らかだ。小麦を豊かに感じさせて、かなり旨い。何回か通ううちに、大盛りで麺だけ(つまり汁なし)を頼む客を見てたまげた。熱々の麺に、酢と唐辛子とラー油をぶっかけてワシワシ食っていた(なんか、ある種、餃子の食い方に似ている)。コイツ、大丈夫か?と思ったが、そうやりたくなるぐらいこの麺が好きな気持ちもわからぬでもない(まー、だけどさ、スープも一生懸命に作ってんだからさと言いたくなるが)。
麺、スープ、叉焼、メンマ……
完璧に旨いラーメン
そのスープがいい。魚介と動物のダブルスープだ。一般的に達人の作り手によれば、スープは、気圧の低い雨の日や曇りの日の方が出来がいいという。ついでに言うと、麺打ちも天候に非常に左右されるらしい。
雨の日も晴れの日も、ここのスープは旨かった気がする。角が取れて柔らかいまったり系とでも言うのだろうか。コクのあるスープに生姜がちょっとだけ利いているところが最大の特徴だろう。ぶ厚い叉焼と濃い味付けのメンマも極上の出来映えだ。一味唐辛子をまぶした味付けネギも旨い。パーツが旨いだけではなく、まとめても統一感があって、完璧に旨いラーメンに仕上がっている。あー、思い出しただけで、生つばが……。
トッピングの味付玉子は必須と筆者は思う。半熟とろりんで旨し。メンマの味も食感も好きなので、いつもトッピングで増量することにしている。
ひとつ注意点があるとすれば、麺の量が多いことである。女性の場合、並(250グラム、中は350グラム)でも困難かもしれぬ。筆者は何も考えずに大盛りを頼んだことがあるのだが(700グラムの表示を見逃した!)、必死に挑むも1/3を残してしまった。「すみません、甘く見てました」と、店主のセガレに謝ったことがある。態度がなっちゃいねえとネットでさんざん叩かれている彼だが、ニヤッと一笑した。
べんてん
東京都練馬区旭町3-25-2
営業時間:11:00~(大体14:00過ぎには売り切れる)
ラーメン(並・中) 850円
塩ラーメン(並・中) 950円
つけ麺(並・中) 900円
味付玉子 100円
メンマ 300円
※席数11
ミシュラン掲載の常連店 「らぁ麺 やまぐち」の「鶏そば」
あまりの旨さに恍惚となった
「らぁ麺 やまぐち」の「鶏そば」
YouTubeなどを見ていると、来日した外国人たちは口々に「ジャパンのラーメン、サイコウでーす!」みたいなことを言っているが、どこで食ってんだろね。是非とも今回紹介したような店を訪ねて、「サイコウ!」と叫んでもらいたいもんだ(外国人に一度も遭遇したことがない)。
「らぁ麺 やまぐち」はミシュラン掲載の常連店であるからして、わざわざ紹介するまでもないのだが、もう10年近く前になるだろうか、最初に「鶏そば」を食べたときに、あまりの旨さに恍惚となったので、この店を挙げておきたい。
変わらぬ感動を与えてくれる
澄みわたったスープ
何と言っても、澄みわたったスープにガツンとやられてしまう。一口で脳が覚醒する感じだ。会津地鶏、山水地鶏、吉備鶏の3種から、鶏の旨味をとことん抽出したものである。今年10年目を迎えてすべてをリニューアルしたという。会津地鶏は二倍にし、羅臼昆布の出汁を合わせた。醤油ダレも3種の醤油を丼で合わせる。10年前も、真剣にスープを作ったら、こんなに旨くなるんだと感動したもんだが、今回もその感動は変わらない。
筆者が注文するのはもちろん、味玉、鶏ワンタン、豚チャーシュー4枚が入った「特製 鶏そば」である。ストレートの細麺がまたいい(もっとツルツルになれば、さらにいい)。ワンタンは旨いし、叉焼は切り分けてから盛り付ける前に、茹で釜のそばにおいて温めるという細やかさだ。柔らかくてとても旨い叉焼だ。シナチクも太いのに柔らかくて旨い。一日百杯以上も出るラーメンであるにもかかわらず、このクオリティは凄い。なんか、割烹料理屋の一品料理並みじゃんか。
一杯のドンブリに魂がこもっているとしか言いようがない。このレベルの店というのは、一杯一杯への真剣さ、繊細さが、一般的な店とはぜんぜん違う。結局、ラーメン道って、そういうことなんだよな。ラーメン万歳、やはり、日本のラーメンは世界に誇るべきもんだという気がしてくる。
らぁ麺 やまぐち
東京都新宿区西早稲田3-13-4
TEL:03-3204-5120
営業時間:11:00~21:30
鶏そば(豚チャーシュー2枚) 1050円
味玉そば 1200円
特製鶏そば(味玉+鶏ワンタン+豚チャーシュー4枚) 1480円
※各店の営業日/時間、値段は変わることがあるので要確認されたし。
「これを食べなきゃ人生ソンだよ」とは
うまものがあると聞けば西へ東へ駆けつけ食べまくる、令和のブリア・サバランか、はたまた古川ロッパの再来かと一部で噂される食べ歩き歴40年超の食い道楽な編集者・バッシーの抱腹絶倒のグルメエッセイ。
筆者プロフィール
食べ歩き歴40年超の食い道楽者・バッシー。日本国内はもちろんのこと、香港には自腹で定期的に中華を食べに行き、旨いもんのために、台湾、シンガポール、バンコク、ソウルにも出かける。某旅行誌編集長時代には、世界中、特にヨーロッパのミシュラン★付き店や、後のWorld Best50店を数多く訪ねる。「天香楼」(香港)の「蟹みそ餡かけ麺」を、食を愛するあらゆる人に食べさせたい。というか、この店の中華料理が世界一好き。別の洋物ベスト1を挙げれば、World Best50で1位になったことがあるスペイン・ジローナの「エル・セジェール・デ・カン・ロカ」。あ~、もう一度行ってみたいモンじゃのお。
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