前回、紹介した「とんかつ すぎ田」がわがトンカツ人生のベストワンではあるが、それと同じくらいの勢いでお薦めしたい、東京のトンカツ厳選3店を大公開する。「すぎ田」のトンカツがいかにうまいのか、まだ読んでない諸君は以下を一読されたし。
蔵前「とんかつ すぎ田」のロースカツがいかにうまいのか語るの巻へ
「ぽん多本家」 他の追随を許さない本気のトンカツを心して食したい店
思わず居住まいを正す
トンカツ真剣勝負がここにある
筆者が「すぎ田」と同じくらい好きな店、それが「ぽん多本家」である。
と言うか、トンカツ好きを自認する者ならば誰もが、「ぽん多本家」を前にして居住まいを正さねばなるまい。創業は明治38年、初代は宮内庁の元料理人で、現在は四代目に当たる。店としての覚悟のほどは随一なのではないか。一見近づきがたき重厚な門扉と、古色蒼然とした看板からして、そのことを物語っている。
店内に入れば、あらゆるトンカツ屋の中で最高度にピンと張りつめたような空気を感じるだろう。職人としての本気度が伝わってくるのだ。入ってすぐのカウンター席ならば、厨房における真剣勝負の一部始終を見ることができる。
どこが本気なのか。例えばすでによく知られていることだが、ラードひとつとってもそうだ。この店の日課は、豚肉をさばいてそいだ脂身で、1時間ほどかけてラードを炊くことから始まるのである(日に一回か二回、この炊く加減が非常に難しいという)。店主はトンカツの風味や香りを決定づけるのは油であると考えている。ゆえに、他人任せにはできない、極めて重要な行程なのである。そんなトンカツ屋は東京ではここだけだろう。
従業員の動きにしても、大将の本気度が間違いなく伝播している。気の抜けたスタッフは一人もいない。
大将の本気度がみなぎる「カツレツ」と
おそらく日本一旨い「カキフライ」を食さずどうする
トンカツは品書き上で、「カツレツ」の一択。ロースとヒレの別はない。トンカツならば、四の五の言わずこれを食えと言わんばかりの矜持を感じる。ロースの芯の赤身部分だけを用いるそうだ。他店で言えば見た目はまるでヒレ。しかし、
席につくといつも頭を抱えてしまうのは、トンカツのほかに揚げ物の種類が多数あるからだ。季節によって品目は変わるが、カキ、いか、穴子、柱、車海老……、いずれも凄まじく旨いから悩ましい。大ぶりのカキフライにいたっては、「これ、日本一旨いんじゃねえの!」と叫びたくなるほどだ。だから、何が何でも、カツのほかにオプションを追加しなければならぬ(笑)。
絶品タンシチューを忘れてはならぬ
仕上がるまでに約3週間を要するというタンシチューも超絶品。ソースのコクが重層的に深く、肉はホロリとほどける。類を見ないほどの仕上がりだ。値は張るが、それだけのことはあるのである(通常私たちが焼肉屋などで食べている牛タンは、大概は米国産などで和牛のものではない。和牛タンは高価すぎるからだ。この店は厳選黒毛和牛のそれを用いているので、高くても当たり前!)。
ご飯も味噌汁も漬物もカンペキなまでに素晴らしくおいしい。沢庵は冬場に400本を仕込むのだそうだ。それらひとつひとつがもたらす感動を噛みしめてほしい。
店の雰囲気を思い出しながら書いたら、クソ真面目な筆致になってしまった(笑)。
ぽん多本家
東京都台東区上野3-23-3
03-3831-2351
11:00~14:00/16:30~20:00
定休日:月曜・火曜(月曜が祝日の場合は営業)
カツレツ 3630円
柱フライ 4840円
穴子フライ 3850円
海老コロッケ 2750円
車海老フライ 時価
タンシチュー 6050円
座席数 24席
※値段は変わるので、要確認
「とんかつ 丸五」 秋葉原の中心でトンカツは日本料理だと確信する店
行列必至。
それでも食べるべき日本を代表する丸五のトンカツ
昼も夜も行列は必至、安定の名店である。都心のトンカツ屋はいま、外国人が大挙して訪れる。ここも秋葉原という場所柄、外国の客がとても多い。トンカツが日本を代表する高度な料理の一つとして知られてきたのは、まことに喜ばしい限りだ。
店内に入れば、清潔に清掃された店であることにすぐ気づくだろう。従業員はきびきびと動いて気持ちが良い。テーブル上には、ソースや醬油や塩に加えて、サービスのラッキョウと小梅が鉢にてんこ盛りにしてある。ケチくさくないところがいい。和辛子もたっぷりと容器に入れてあって、辛子をたんまり使いたい私としてはとても嬉しい。
ロースを食ったぜぃという充実感を味わえる
一押しは「ロースカツ」よりも「特ロースカツ」だ。後者は山形県の平田牧場の平牧三元豚を使う。両者を比較すれば、断然に後者となる。切り幅がちと大き目で、もう少し細い方が口に入れた時にさらに旨くなるんだがなぁといつも思うが、旨いことは間違いない。脂身は多いが、咀嚼した時の脂の溶け具合は見事だ。「すぎ田」とも「ぽん多本家」とも違う、ロースを食ったぜぃという充実感を味わわせてくれる。
ソテーや生姜焼きもあり、夜は角煮とか肉よせ、大和煮ほか、様々なメニューがある。豚料理の総合商社みたいなもんか。が、そちらは食べたことがない。きっと旨いに違いない。
とんかつ 丸五
東京都千代田区外神田1-8-14
03-3255-6595
11:30~15:00/17:00~21:00
定休日:月曜・火曜
ヒレかつ定食 1950円
ロースかつ定食 2200円
ヒレソテー 2200円
ロース生姜焼き 1400円
串カツ 1500円
座席数 34席
※値段は変わるので、要確認
※ウェブサイトなし
「tonkatsu.jp 表参道」 トンカツ界のニューウェーブ が奏でる、豚肉愛あふれる店
日本全国の銘柄豚の生産者を訪ね歩いた
豚肉への愛
店名からしていかにもニューウェイブである。筆者が訪れたときは、新規開店間もない頃だったので、さして混んでいなかった。現在は、トンカツ好きの間に評判が評判を呼んで、きっと混雑していることだろう。
豚肉への愛に満ちあふれた店である。というか、店主の豚への探求心が凄まじい。彼は日本全国の銘柄豚の生産者を訪ね歩いた。日本の豚をこれ以上に識る人はいないのではないか。
新宿の新店「KATSUプリポー」の品揃えもなかなかのものだが、「tonkatsu.jp 表参道」ほど多数の生産者にコンタクトしている店は唯一無二である。ちょっと店のホームページを覗いてみてほしい。取り扱いしている銘柄豚の多さにド肝抜かれるに違いない。
誉め言葉として……一種の「肉の変態」
どろぶた・シュベービッシュ ハル(北海道)、岩中豚(岩手)、あわ雪ポーク(群馬)、鈴木農園の豚(小豆島)、きなこ豚(宮崎県)、サドルバック・幸福豚(鹿児島県)……など、産地は北海道から九州まで、30種近くもある。
これらの豚が、ポジショニングマップによって、X軸を「しっかりとした弾力⇔柔らかな肉質」、Y軸を「濃厚な味わい⇔さっぱりとした味わい」とし、XY軸が交わることにより4つの領域が生まれ、それぞれの豚が分類されている。その日店にある豚から自分の好みに近いものを選べる、またとない店だ。
ま~、マニアというか、オタクというか、店主本人も言うように一種の「肉の変態」なのだろう。しかし、新たな道はいつも「変態」によって切り拓かれるものだ。もっとマシな言い方をすれば、豚肉の伝道師である。〝豚ワールド〟がいかに豊饒かを布教したいのだね、ここの大将は。
たくさんある品種を、それぞれ最適な揚げ方で供する
どの豚に対してどんな揚げ方がいいのか、日々の研鑽を重ねた上で、トンカツが客に供されるのである。品種がたくさんあっても、肝心のトンカツがマズけりゃ本末転倒だ。ここのトンカツは間違いなく旨い。断面の半分が脂身という、「豚と言えばアブラだろ」と言わんばかりの凄いやつもあるようだ。できれば二人以上で行って、銘々が異なる豚を選んで食べ回しすれば、より一層楽しいだろう。
1日2組限定で、ロース・ヒレそれぞれ3銘柄の食べ比べコースや、ロース・ヒレそれぞれ4銘柄の食べ比べコース、要予約で3銘柄6品の「めぐり豚」コースもある。行くたびに、種類を変えて食べる楽しみがある店だ。すっきりと小奇麗な店の外装と内装も、表参道に馴染んでいる。
tonkatsu.jp 表参道
東京都港区北青山3-9-9-1F
03-6427-4910
(平日):11:30~15:30/17:30~21:00
(土日祝)11:00~15:00/17:00~21:00
定休日:ホームページで要確認
ロースかつ定食 1890~2390円
上ロースかつ定食 2190~5490円
特上ロースかつ定食 2690~6990円
上ロースかつ&ミニひれかつ定食
3190~6990円
座席数 13席
※値段は変わるので、要確認
「これを食べなきゃ人生ソンだよ」とは
うまいものがあると聞けば西へ東へ駆けつけ食べまくる、令和のブリア・サバランか、はたまた古川ロッパの再来かと一部で噂される食べ歩き歴40年超の食い道楽な編集者・バッシーの抱腹絶倒のグルメエッセイ。
筆者プロフィール
食べ歩き歴40年超の食い道楽者・バッシー。日本国内はもちろんのこと、香港には自腹で定期的に中華を食べに行き、旨いもんのために、台湾、シンガポール、バンコク、ソウルにも出かける。某旅行誌編集長時代には、世界中、特にヨーロッパのミシュラン★付き店や、後のWorld Best50店を数多く訪ねる。「天香楼」(香港)の「蟹みそ餡かけ麺」を、食を愛するあらゆる人に食べさせたい。というか、この店の中華料理が世界一好き。別の洋物ベスト1を挙げれば、World Best50で1位になったことがあるスペイン・ジローナの「エル・セジェール・デ・カン・ロカ」。あ~、もう一度行ってみたいモンじゃのお。
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