食べ歩き歴40年、謎のグルメ編集者バッシーが、今年も旨いうなぎを探し求めて幾千里。前回はバッシーお勧めの本年度のベスト1「うなぎ魚政」を紹介しましたが、今回はもっとたくさん旨いうなぎ屋を教えろ!の皆さまの声にお応えし、東京のうなぎ界きってのベスト3軒「銀座 四代目 髙橋屋」、「入谷鬼子母神前 のだや」、「石ばし」を紹介します。
バッシーいわく「この3軒に行ったら間違いなしに旨いことだけは保証する」とのこと! 諸兄よ急いで!
ベスト1は「うなぎ魚政」だ。読みたい人はこちら。
→うなぎが食べたいなら、東京四ツ木・うなぎ魚政に行け!の巻
昨年わが心のベスト1に輝いたのは「尾花」。
2023年のうなぎベスト3は「炭焼 うな富士 有楽町店」「うなぎ わたべ」「鰻はし本」だ。
「銀座 四代目 髙橋屋」は旨さ抜群で
客への心配りもサイコーな店だ
創業150年である。本店「うなぎ割烹 髙橋屋」は埼玉県杉戸町(東武動物公園駅のそば)にあるが、満を持して銀座に出店した。おそらくそれが悲願だったんでしょうな。歌舞伎座の裏にあるビルの4階、小さな店舗だ。
うなぎが来るまでには40分ほど待つが、その間に、もずく酢と静岡県の生の本山葵が出てきた。本山葵はうなぎにつけて食べるのだが、山椒も2種類ある。乾燥した粉山椒と、ミルで挽く粒山椒である。山椒は和歌山のブドウ山椒だそうだ。
これだけで、客を喜ばそうとする店の心意気を感じるじゃあないの。嬉しいねえ。
うなぎの出来上がりが近づき、肝吸い、漬物、そしてうなぎのタレに漬けた卵黄がやってきた。これもうなぎにつけて食べる。つまり、4種類の変化でうなぎを楽しめるってことだ。
さて、肝腎のうな重である。蓋を開けてたまげたね。丸一尾であるから、尾の部分がはみ出しているぜ。それにしても焼き色の見事なこと!
うひゃー!丸一尾ふわとろのうなぎだよ!
タレのバランスもよきよき
まずは、うなぎだけを食べてみる。うひゃーッだよ。すごい「ふわとろ」だ。これは前回紹介したNo.1の「魚政」に勝るとも劣らない。タレの味も、甘味と塩味のバランスが抜群にいい。
次はうなぎとご飯を一緒に食べるのだが、この白米が見事なまでに旨い。次に本山葵をつけてみる。白焼きは本山葵で食べることが多いが、蒲焼きにも合うことを発見した。続けて、粉山椒をご飯と蒲焼きの間に振りかけ、粒山椒をミルで挽いて同じようにして食べた。薬味を加えるパターンでは甲乙丙をつけがたいが、強いて言うなら粒山椒、次に本山葵が好きだね。
そうそう、卵黄もあったな。すき焼きみたいなモンだ。ふむ、これは好きな人もいるだろうけど、ワシにはツーマッチなように思えた。むしろ、うなぎの風味にとっては卵黄は邪魔かもね。でも、その心遣いは嬉しい。
漆塗りのスプーンを付けてくれるところも、〝お客ファースト〟の精神を感じさせる。実は、うな重って、ご飯にタレがかかっているから、ボロボロこぼれて食べにくかったりするんだよね。ありがてえ。心配りが細かい店だ。
ちなみに、本日食べたうなぎは養殖もので、愛知県の三河一色産の青鰻、ブランドものだ。肉厚で脂ものっていて、いいうなぎだ。米は新潟県魚沼塩沢産ハザ掛け米なんだが、髙橋屋の味に合うように10年以上もかけて改良を重ねた専用米なんだそうだ。そんなことしているうなぎ屋、ほかにあるの!?
たしかに、このうなぎと米との一体感は只事ではない。カンペキなものってあるんだねえ。
そう言えば、関西の地焼きでもやってくれる。後から聞いて後悔したんだが、「うなぎ 二段重ね 御膳」というものがあって、一番下の層がご飯、その上に関東の蒲焼きが載り、さらにご飯、そしていちばん上が関西の地焼きの4層構造なのだそうだ。うなぎの量は一尾半もある。次回は、絶対にこれしかないと心に決めた(笑)。
実は懐石コースも3種類ある。総料理長は髙橋さんだが、料理長は「銀座小十」出身者が務めている。余裕のある人はそれもゴージャスでいいかもね。
銀座 四代目 髙橋屋
東京都中央区銀座4-12-1-401
TEL 03-3547-0021
営業時間:11:30~16:00、17:00~23:00
定休日:月曜日、第二第三火曜日
うな丼 御膳(半尾) 5,000円
特上うな重 御膳(一尾) 7,000円
うなぎ 二段重 御膳(一尾半) 9,800円
懐石コース(予約制) 14,800~29,800円
「入谷鬼子母神前 のだや」は
うなぎ愛に満ちた通いたくなる店
「のだや」は意欲的なうなぎ屋である。焼き場が外からも内からも見えるようにし、メニューも「かば焼きの天ぷら」や「うなぎの酢〆」、「うなぎハムとクリームチーズ」、「うなアイス」(!)……と、新メニュー開発に余念がない。値段の張るコース料理もある。創業は明治元年である。
また、ウンチクですんません。もちろん腕があったればこその話なのだが、焼いたうなぎの旨いマズいは、ことのほか素材の良し悪しに左右されるようだ。料理の一般論として、「腕が四で素材が六」とも言われるね。
天然ものにも相当な味の開きがあり、養殖ものにはさらに天地ほどの差異がある。基本的にすべての養殖うなぎは魚油を食わされているんだって。それを食わせていない養殖場は日本では一箇所だけ。与える魚油の量は養殖場によって変わる。そればかりを食わされた、ひでえうなぎもいる。そしたら、うなぎじゃなくてさ、別の魚の味しかしなくなるじゃん。
ゆえに、志あるうなぎ屋のまっさきの使命は、いかにいいうなぎを確保するかなのだ。
その点において、「のだや」は自信で漲(みなぎ)っているから頼もしい。天然の青鰻の入荷は日によるが、静岡の共水(きょうすい)うなぎ、愛知の兼光(かねみつ)うなぎ、宮崎の和匠うなぎという、仕上がりに関しては努力の結晶と称される3大ブランドを、だいたい取り揃えている。
白焼きと蒲焼きが二重に入ったお重、
「匠の鰻 兼光(極特大)」を食す
天然・養殖の食べ比べメニューなどもあるのだが、残念ながら私が訪ねた日は天然ものがなく、それで選んだのは、「匠の鰻 兼光(極特大)」というやつである。白焼きと蒲焼きの二種を食べ比べられる、食いしん坊ばんざい!なメニューだ。ゼイタクじゃのお。
鰻巻きを食べて待っていると、お重が運ばれてきた。上段が白焼き、下段がご飯に載った蒲焼きである。蓋を取れば、ピカーッ、おおー、オーラが立ち上るようではないか。
白焼きからだ。まずは、そのままで、次にピンクの塩で、続けて塩とワサビ、最後に最高級の本山葵と醤油で食べた。最初カリッときて、中身はホワンと柔らかい。いや~、旨いね~。どうやって食べても旨い。臭みなどは微塵もない。うなぎが豊かに香り、実に香ばしい。やはり、うなぎそのものの味を楽しむには、なんたって、白焼きがいい。
次に蒲焼きである。美しいではないか。焦げ目のない飴色で覆われている。実は皮側を見ると、焦げが無数の点となり散っている。これは万遍返しという技で、満遍なくうなぎに炭火が当たるように、何度もひっくり返して焼かれた証拠なんだそうだ。達人の技だぞ。
今回は関東の蒸し焼きでお願いしたが、櫃(ひつ)まぶしもできるし、関西の地焼きでもやってくれる。最近、そういう店が増えてきたのは嬉しいことだ。
ここでさらに一考。関東の蒸し焼きと関西の地焼き、どっちが旨いのか?
魯山人は「一も二もなく東京の蒸し焼きがよい」と書いてるけどさ、そうかね? 私はどっちも優劣つけがたい旨さがあると思うけど(魯山人っちゅうても、時々、疑問が湧くね。ただ、書きっぷりが、断言調で上段からだから、圧倒されるだけで。試しに『魯山人味道』とか読んでみてくんさい)。
さて、蒲焼きはふんわりと蒸してあり、タレの甘さは控えめで、うなぎの味を損なわないようにしてある。実に旨い。うーむ、極楽じゃ。やはり、蒲焼きのときには、フワフワに柔らかいのがいい。
ご飯は山形の無農薬栽培のつや姫。山椒はかなり効くのでご注意と書いてある。確かに強いけど、とても旨い山椒だ。例によって、蒲焼きとご飯の間に山椒をかけて食う。これはうなぎ食いの大先達の教えである。
肝吸いの味は深く、糠漬け・奈良漬の各種も旨い。大満足のうちに、ふぅううッと深いため息。最後に、給仕の女性陣の一人一人が、まー、親切で感じがいいことったらないぜ。店を出る時には、大将が焼き場から威勢のいい挨拶。自信と歓待の精神が同居している。いいねえ。再訪したくなるじゃないの。
入谷鬼子母神前 のだや
東京都台東区下谷2-3-1
TEL 03-3874-1855
営業時間:11:00~売り切れ仕舞い、17:30~売り切れ仕舞い
定休日:毎週月曜、祝祭日の場合は営業
匠の鰻 兼光(極特大) 8500円
「石ばし」のうなぎが旨いのは当たり前
糠漬け盛合せは必食ものである
創業は明治43年、うなぎ好きで知らない者はない老舗だ。ミシュランの店の選び方に関しては、いちいち小言いいたくもなるが(笑)、一応、「石ばし」はうなぎでたった2軒(東京版)しかない1つ星付きのうちの1軒である(この1つ星かビブグルマンかという境界が、実に議論の分かれるところだ)。筆者が当店に来るのは三度目だ。
なにしろその佇まいからして普通じゃない。塀は東京大空襲にも耐えた赤レンガで、母屋は古風な一軒家だぜ。その庭も家屋内部も、隅から隅までピカピカに掃除してある。気持ちがいいぞ。
注文を聞いてからうなぎを割くので時間はかかる。1時間待ってくれとホームページには書いてある。なので、「百年糠床の漬物盛合せ」でもつまむことにした。
きれいに盛り付けられて出てきたのだが、これが滅多にないくらい旨い。糠床の年季が長いと腐敗臭がすることもあり、それがいいと勘違いしている飲食店もけっこうある。「石ばし」の糠漬けはそれとは無縁のもので、爽やかな発酵の匂いだ。糠床をよほど丁寧にケアしているのだろう、旨味もちょうど良い。
しかも、筆者が糠漬けの中でいちばん好きなキャベツもある。自分も家でやっていたから分かるが、こいつを作るのはなかなかホネだぜ。一枚ずつ広げて糠につけたものを取り出して千切りにする。この店は千切りした上で、丁寧にシソをまぶしてあるのだ。素晴らしいぜ! もちろん、カブもキュウリも旨い。醤油を少々かけるとさらに旨い。醤油つぎもかわいいじゃんか(笑)。うな重にも漬物は付いてくるが、この漬物盛合せは絶対に頼んだ方がいい。サラダ代わりに、ペロッといけちゃう。
うなぎの見事な焼色と、ご飯の旨さに感嘆
うな重特上はいいぞ
さて、うな重特上のお出ましだ。縦に三列である。うなぎは静岡と九州のものを厳選しているという。見事な焼き色ではないか。最初に蒲焼きだけを食べた。柔らかさ、香ばしさ、うなぎの味の深さ……うむ、間違いなく旨い。タレはやはりキリッとしていて、どちらかと言うと塩味よりである。おそらくタレに使っているのは、醤油と味醂だけだ。
続けて、ご飯と一緒に食べた。いいねえ。うなぎ愛が昂じる。さらには山椒を加えて食べた。このピリッとくる感じが旨さを倍加させる。ご飯がいい具合に炊いてあることは、もう、言及する必要がないよね? 試したことはないが、コース料理もなかなかのモンらしい。能登半島地震で被災した輪島塗の再興のために、料金の一部を寄付金に充てる「義援金コース」もある。
7月ともなれば、予約は困難を極めるであろう。店のホームページから予約するよりも、電話の方が簡単だ。電話なら一人でも席が取れるよ。応対も親切だしね。
石ばし
東京都文京区水道2-4-29
TEL 03-3813-8038
営業時間:11:30~14:30、18:00~21:00
定休日:日曜・月曜・祭日・土用の丑
うな重 特上 7,800円
うな重 上 6,800円
百年糠床の漬物盛合せ 1,000円
白焼 6,500円
コース料理 19,000~25,000円
「これを食べなきゃ人生ソンだよ」とは
うまいものがあると聞けば西へ東へ駆けつけ食べまくる、令和のブリア・サバランか、はたまた古川ロッパの再来かと一部で噂される食べ歩き歴40年超の食い道楽な編集者・バッシーの抱腹絶倒のグルメエッセイ。
筆者プロフィール
食べ歩き歴40年超の食い道楽者・バッシー。日本国内はもちろんのこと、香港には自腹で定期的に中華を食べに行き、旨いもんのために、台湾、シンガポール、バンコク、ソウルにも出かける。某旅行誌編集長時代には、世界中、特にヨーロッパのミシュラン★付き店や、後のWorld Best50店を数多く訪ねる。「天香楼」(香港)の「蟹みそ餡かけ麺」を、食を愛するあらゆる人に食べさせたい。というか、この店の中華料理が世界一好き。別の洋物ベスト1を挙げれば、World Best50で1位になったことがあるスペイン・ジローナの「エル・セジェール・デ・カン・ロカ」。あ~、もう一度行ってみたいモンじゃのお。
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