ミシュラン二ツ星にも出かけるよ 和歌山の「ヴィラ アイーダ」の至福体験記ミシュラン二ツ星にも出かけるよ 和歌山の「ヴィラ アイーダ」の至福体験記

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これを食べなきゃ人生ソンだよ

2023.8.11

ミシュラン二ツ星にも出かけるよ 和歌山「ヴィラ アイーダ」の至福体験記













イタリアか?南仏か?
ここは和歌山「ヴィラ アイーダ」だ

 

 

料理関係者とシェフたちに絶大な支持を受けているのが「ヴィラ アイーダ」である。そのワケは訪ねてみれば、すぐにわかる。大阪は関西空港からタクシーで30~40分。山だらけの和歌山県の田んぼに囲まれた平坦な地にレストランはある。

 

 

その一帯だけまるでトスカーナかあるいは南仏かと見紛うようだ。オーベルジュ風の建物がいい。その隣には畑が広大に広がっている。この畑とビニールハウスで、シェフの小林寛司さんは奥さんとともに野菜を育て、朝採れたばかりの野菜やハーブが、午餐に出てくるのである。ちょっと前の資料を読むと100種の野菜とハーブとあるが、現在は年間を通せば300種を育てているというから驚きだ。なんせ〝採って出し〟なんだから、究極のファーム・トゥ・テーブル(生産者からテーブルへ)と言える。最近その言葉が流行りだが、小林さんはそれを十数年も前に始めた先駆者なのだ。











実は、自然豊かで余裕ある暮らしをしているイタリアや南仏やスペインの地方に行くと、こういうレストランは少なからず存在する。特に店を開業した初代が、料理はもう息子たちにすっかり任せてしまい、「オラは百姓だから」と、野菜やオリーブや果樹やキノコ作りに勤しむお父っつぁんに、筆者は何人も会ったことがある。

 

 

 

そうした影響を小林シェフも受けているという。確かに、シェフが修業したカンパーニャ州ソレントの星付き名店「ドン・アルフォンソ1890」もそうである。オヤジはせっせと畑仕事をして、息子たちと元気すぎるお母ちゃんが店を切り盛りしていた。小林さんは〝兼業シェフ〟だから、一層たいへんだ。そう言えば、筆者は「ヴィラ アイーダ」に来て、宿泊もできるオーベルジュでもある「ドン・アルフォンソ」の、田舎に溶け込みゆったり流れる空気を何となく思い出していた。






ここは究極のファーム・トゥ・テーブル
空間、雰囲気すべてがご馳走

 

 

日本では多くの有名レストランは都心にある。そのシェフたちにしてみれば、小林さんが実現しているこんなパラダイスが可能なのかと、もはや羨ましいだけだろう。多くの食関係者が、ここをデスティネーション・レストランと呼ぶのもよくわかる。この場所に来ることに意味があるし、ホンモノの樹木や草木に囲まれたこの店で食べることに意味があるのだ。レストランがまとう借景や空気全体がすでに極上のご馳走なのである。






アペリティフルーム アペリティフルーム

建物に入ると、アペリティフ・ルームもダイニング・ルームも広々として、実に居心地がいい。ランチが始まったのは11:30だ。大きな木のテーブルがひとつ。そこには最大で8人が座れるのだが、窓からは日差しが燦燦と射し込んでくる。









この俺が浄化されていくような……
そんな野菜料理の数々

 

 

まず出てきた「紫蘇のジュース」は体の細胞に染みた。畑の紫蘇を大量に絞って作るのだそうだ。旨し! 次に3種類のアミューズ・ド・グル(フィンガーフード)。モロヘイヤの胡麻がけ、ブルーベリーのエスプーマ仕立て、ホウズキの酢漬けだ。どれも優しく繊細な味なのだが、ブルーベリーやホウズキの軽やかな酸味が食欲を掻き立ててくれる。

 

 

前菜がいくつか続く。「シロップ漬けの青梅と茗荷」、「苦瓜とサザエのエスプーマ」、「トマトとバジルの乳清和え」である。なんかねー、これまで蓄積された体内の毒が浄化されていくような、そんな野菜料理なんだよな。

 

 

シェフはそんなに多くのことを素材に対して施していない。例えば「苦瓜とサザエのエスプーマ」だが、細かく刻んだ苦瓜とサザエを、ジャガイモと紫蘇の実とエスプーマという最小限の要素でつなぐことによって絶妙なバランスをもたらしている。「トマトとバジルの乳清和え」では、バジルと乳清で精妙な手を添えることによって、トマトの酸味も甘味も丁度良いところに落ち着くのだ。







3種類のアミューズ・ド・グル(フィンガーフード)。 3種類のアミューズ・ド・グル(フィンガーフード)。

3種類のアミューズ・ド・グル(フィンガーフード)。







「苦瓜とサザエのエスプーマ」 「苦瓜とサザエのエスプーマ」

苦瓜とサザエのエスプーマ





「トマトとバジルの乳清和え」 「トマトとバジルの乳清和え」

トマトとバジルの乳清和え






小林さんの料理は、ぜんぜんオラオラ系ではない。静かに語るその人柄そのもので、素材にそっと介添えをするのだ。どの料理にも、小さなエディブルフラワーやハーブやピクルスが細密画のようにあしらってある。そのひとつひとつが何であるのか筆者には解析できないが、総体として味の奥行きは実に深く、物凄く旨いとしか言いようがない。舌上のあちこちの五味が、ボンッと一気に覚醒するとでも言うのだろうか。

 

 

「炙ったマグロとオクラ」と「菜園野菜」が前半のピークだ。前者は、キハダマグロの火入れがまさにジャストの半生状態で、オクラの他に3種の野菜が散りばめられている。キハダマグロの上に載った細かく刻んだ赤玉ねぎのマリネが効いている。滅茶苦茶に旨い。後者は、種々のトマトやキュウリやイカ、そしてエディブルフラワーのコンビネーションが見事だった。食べながら、あー、今日は健康になったかもと思う食事ってなかなかない。







パスタは大サービスで2種類出てきた。ゴロンとしたサバの切り身が入った「サバのパッケリ」はオイル系で、「トマトとバジルのペンネ」は実にシンプル。さすがにソレントの「ドン・アルフォンソ」でパスタを任されていただけの腕前である。小林さんのパスタを食べると、パスタソースはパスタの小麦の味わいを損なってはいけないものだということが良くわかる。パッケリもペンネも噛み応えがあって、小躍りしたくなるほど小麦の旨味がする。そして、ソースや具とパスタが織りなす全体のバランスが見事だ。途方もなく旨いのは、ミネラル豊かな塩の塩梅がばっちり決まっているということでもあるだろう。あー、思い出しただけで、もう一度食べたくなる。

 

 

メインの「ホロホロ鳥とかぼちゃ」も素晴らしかった。火入れが完璧だ。和歌山でホロホロ鳥を育てている人がいるそうで、その柔らかさと味の深さには驚いた。付け合わせのかぼちゃは、たぶんバターナッツカボチャだろう。デザートも2種出てきたが、とりわけ「桃と酒麹のコンポート」は絶品だった。ちなみに、自家製のパンも旨くて、何度もおかわりした。






「サバのパッケリ」 「サバのパッケリ」

サバのパッケリ





「ホロホロ鳥とかぼちゃ」 「ホロホロ鳥とかぼちゃ」

ホロホロ鳥とかぼちゃ







小林シェフは「野菜使いの天才」なんだな

 

 

凡庸な形容をさせてもらうと、最初から最後まで野菜であふれた料理を作る小林シェフは、「野菜使いの天才」なんだな。だが、一口に野菜を使うと言ってもそう簡単なことではないと思う。彼の頭の中には、味の設計図があり、各パーツをそれぞれの野菜が構成する。それは食材ひとつひとつの本来の味が最大限に活かされていて、さらに組み合わさった時の味を計算するという、恐るべきことでもある。つまり、虫も殺さぬような穏やかな素振りで、とんでもなく難しいことをやってのけているのだ。

 

 

 

小林さんは野菜使いに優れた世界のトップシェフたちに通じ、まったく遜色がないと筆者は思った。例えば、フランス・マントンの「ミラズール」(ミシュラン3ツ星で、ワールドベスト50の世界一)や香港の「アンバー」(ミシュラン2ツ星でアジアベストレストラン50の一桁常連)などである。小林さんにミシュラン2ツ星を与え、アジアベストレストラン50で14位に押し上げたそれぞれの審査員たちは、いい仕事をしたやんか。









いちじく いちじく

レストランの周囲は小林シェフ夫妻が世話する畑。和歌山はいちじくの産地で、たわわに実っております。






キウイ キウイ

キウイフルーツも成っている。パラダイスかよ。







小林シェフ 小林シェフ

エントランスで見送ってくれた小林シェフ





未だかつて、小林さんのように野菜をふんだんに使う西欧料理人は日本にいなかった。したくても出来ないという理由もあるだろう。フレンチのピエール・ガニェールが赤坂のホテルでそういう料理を志してはいたが、筆者は小林さんのときほどは感激しなかった。彼が唯一無二と呼ばれる所以はそこにある。そして、彼がコラボなどで日本中から声がかかるのは、田舎にこそ料理を進化させる秘訣と可能性があることを示してくれているからなのである。

 

 

コースの間じゅう、奥様であるソムリエールの有巳さんが甲斐甲斐しく、シャンパンから始めて自然派の白ワインと赤ワインをペアリングしてくれた。いずれも軽快で野菜料理にマッチして、とても楽しめた。「LURISIA」というガス入りの水が軟水でとても旨いので、ぜひ試してもらいたい。

 

 

こんなに清澄な時間が流れる午餐であったのに、おっさん(筆者)がゲハゲハくだらない話ばかりしていたことを、帰路に深~く反省した次第。でも、再訪したい(苦笑)。





























ヴィラアイーダ Villa AiDA
和歌山県岩出市川尻71‐5

1日1組のゲストのみ。詳しくは公式サイトへ。

 

 

 






「これを食べなきゃ人生ソンだよ」とは

うまいものがあると聞けば西へ東へ駆けつけ食べまくる、令和のブリア・サバランか、はたまた古川ロッパの再来かと一部で噂される食べ歩き歴40年超の食い道楽な編集者・バッシーの抱腹絶倒のグルメエッセイ。

 

※各店の営業日/時間、値段は変わることがあるので要確認されたし。






筆者プロフィール

 

食べ歩き歴40年超の食い道楽者・バッシー。日本国内はもちろんのこと、香港には自腹で定期的に中華を食べに行き、旨いもんのために、台湾、シンガポール、バンコク、ソウルにも出かける。某旅行誌編集長時代には、世界中、特にヨーロッパのミシュラン★付き店や、後のWorld Best50店を数多く訪ねる。「天香楼」(香港)の「蟹みそ餡かけ麺」を、食を愛するあらゆる人に食べさせたい。というか、この店の中華料理が世界一好き。別の洋物ベスト1を挙げれば、World Best50で1位になったことがあるスペイン・ジローナの「エル・セジェール・デ・カン・ロカ」。あ~、もう一度行ってみたいモンじゃのお。

 



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