創業130周年を迎えた軽井沢の「万平ホテル」は、日本を代表するクラシックホテルの一つである。2023年1月3日、一旦そのドアを閉め、大規模改修・改築を行って、2024年10月に多くの人々が待ちわびる中、グランドオープンを迎えた。老舗ホテルの大規模修繕は、いつでも大きな話題になるが、万平ホテルも然り。どのようになるのかと不安と期待に包まれていたようだが、新たに生まれ変わった姿は期待以上の素晴らしいリボーンであった。
軽井沢駅から約2km、緑豊かな美しい別荘地の中へと進むと、山小屋風の瀟洒な佇まいの万平ホテルが見えてくる。その懐かしい佇まいを見ると、あれ、改修したのよね?そういいたくなるほど、いい意味で変わっていない。ホテルエントランスに近づくと、以前と変わらないカフェテラスの賑わいを見て、その堂々たる復活に感動すら覚える。
浅間山の景勝地、軽井沢の発展を期待して旅籠「亀屋」としてスタート
万平ホテルの歴史を少し紹介する。
1764年、佐藤万右衛門氏が旅籠「亀屋」を開業したのが万平ホテルの起源である。1886年、旅籠「亀屋」にカナダ生まれの宣教師、アレクサンダー・クロフト・ショーと、帝国大学の教師ジェームズ・メイン・ディクソンがひと夏滞在をしたのを機に、初代佐藤万平が亀屋を欧米風のホテルに改装し、屋号を「亀屋ホテル」へ改称し、その後に外国人が発音しやすいように「萬平ホテル」へ改名する。
万平ホテルが現在の地、桜の沢に移転してきたのは1902年のこと。1936年、「日光金谷ホテル」や「富士ビューホテル」などを手掛けた久米権九郎氏の設計により、ホテル正面にある「アルプス館」が誕生した。
しかし太平洋戦争が開戦し、戦後の一時期は、将校専用の休養向けスペシャルサービスホテルとなるなど、激動の時代を経ていく。昭和40年代にアタゴ館、アサマ館が増築、さらに2001年にはウスイ館を新築するなど規模を拡張し、国内外の財界人著名人などを数多く迎えた。2018年にはアルプス館は登録有形文化財に登録された。
古き良き伝統としつらえはそのままに、快適性を追求した新・万平ホテル
長い歴史を紡ぐ当ホテルには、ここを愛して止まないファンが多くいる。代々、ひと夏は万平ホテルで過ごすという家族も多く、祖父母との思い出が詰まったここで結婚式を挙げたいと希望するお孫さんもいたという。
そんな家族の思い出に刻まれている万平ホテル大規模修繕・改修でどう変わったのかは、たとえ宿泊はしたことがないという人にとってもやはり気になるところである。それほどに日本人にとっては大切なホテルの一つなのだ。
万平ホテルのシンボルでもあるアルプス館は、一度建物全体をジャッキアップして、構造体のみ残して耐震工事や修復を施し、可能な限りその姿を残すように改修されている。アルプス館前の植栽もなるべく元のものを残すなど、以前の姿に戻されているが、エントランスの階段はなくなりバリアフリー化がされている。
クラシカルな調度品や軽井沢彫の家具が並ぶ
エントランスをくぐると、昔の面持ちのままのロビーとフロントがある。建築当時から使われているステンドグラスや、ホテルの伝統と歴史を感じる調度品がそのまま使用されており、何よりホテルスタッフの変わらない温かい笑顔も昔のまま。
ホテルは快適な施設空間も大切ではあるが、やはりふれあいが一番心に刻まれるものだ。
特に避暑地という場所柄、我が家に帰ったような温もりと心地よさが何よりものサービスとなる。万平ホテルの“ホテルは人なり”という精神は確かにここには宿っている。
ロビーを抜けると、風格あるメインダイニングルームが現れる。大きなステンドグラスや格天井のモチーフはそのまま施されているので、以前の風格や重厚感は残っている。サンルームから見える中庭も美しく整えられてはいるが、御神木は同じ場所に鎮座している。
メインダイニングルームには2つの個室がある
黒毛和牛ロース肉のグリル 温野菜添え
老舗ホテルのレストランでは、脈々と受け継がれているレシピがあり、それをいただけるのも楽しみの一つだ。大橋料理長が開業当初のレシピをかき集め再構築し、地元食材と丁寧な仕事で生み出したメニューの数々を提供している。中でも、ディナーでいただける「ザ・クラシックディナー」は、万平ホテルを代表する料理が並ぶコースでもあるので、ぜひ味わって欲しい。
また、カフェテラスでいただける「伝統のアップルパイ」も万平ホテルを代表する味だ。約50年前にお客様のリクエストで生まれたレシピが継承されているアップルパイは、信州産紅玉リンゴがたっぷり入った優しい甘さが美味しい。自然に囲まれた開放的なカフェテラスの屋外テラスは、愛犬と一緒に過ごせることもあり、近隣の人々や観光客がゆっくりとくつろげる空間になっている。
大きな窓から、軽井沢の自然が楽しめるカフェテラス
たっぷりのリンゴが入ったアップルパイ
極上のステイが約束された、万平ホテルクオリティに感動
次はお待ちかねの客室を紹介しよう。
宿泊棟は「アルプス館」「愛宕(あたご)館」「碓氷(うすい)館」の3棟が通路で繋がっている。
クラシックな雰囲気が好きな人におすすめは、やはりアルプス館であろう。万平ホテルの「万平格子」と呼ばれる特徴的な格子模様の入ったガラス障子や猫足バスタブ、伝統工芸品の軽井沢彫家具など、かつての面影は残しながら、より快適性を高めた空間に仕上がっている。
アルプス館からつながる「愛宕館」は全室温泉付きに建て替えられ、塩沢温泉から湯が運ばれ、24時間温泉を楽しめるようになっている。いつでも温泉に入れることで、新たな滞在の楽しみが確実に増えた。
さらに通路を進んで行くと新築された「碓氷館」がある。万平ホテルの精神が息づくモダンな空間は心穏やかな時間を約束してくれるはずだ。
アルプス館クラシックプレミア
愛宕館プレミア
愛宕館プレミアの浴室ではいつでも温泉が楽しめる
碓氷館 碓氷スイート
万平ホテルといえば、ビートルズのジョン・レノン一家が亡くなる前年まで毎年、ここ軽井沢の万平ホテルで休暇を過ごしたということはよく知られている話だが、他にもここにはたくさんの伝説がある。それゆえ、改修・改築に対しては賛否両論あったようではあるが、完成すると「変わらなくてよかった」「きれいになり快適だ」そんな声が多く届けられていると聞く。伝統と進化の融合を見事に実現した姿がここにはあるからだろう。
軽井沢の夜の社交場になっているバー
かつては冬の間は閉館していたが、改修・改築を経て、1年中宿泊ができるようになったことは万平ファンにとっては大きな収穫である。夏の避暑だけではなく、冬の静かな軽井沢を新たな万平ホテルで思い出を刻むのも、また一興であろう。
Text by Yuko Taniguchi
長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢925
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