シンガポールを代表するホテルとして、125年以上にわたり時を刻んできた「グッドウッドパークホテル・シンガポール」。映画の舞台としてもたびたび登場する美しい建築は、クラシックホテルとしての威厳をたたえながら、目覚ましい革新を続けるシンガポールの街で、その歴史と文化を今に伝える特別な存在である。
そんな名門ホテルが、受け継いできた伝統を大切にしながら、より快適で洗練された空間へとアップデート。2026年には「メイフェアウィング」がリニューアルし、クラシカルな趣と現代の“クワイエット・ラグジュアリー”が響き合う、新たなページをスタートさせた。一軒のホテルを通して、新旧が美しく共存する街の魅力を旅してみた
シンガポールの歴史とともに歩んだ、ヘリテージホテルの物語
オーチャードロードからほど近い緑の中に佇む、グッドウッドパークホテル・シンガポール。その歴史が始まったのは1900年。もともとは、シンガポールに暮らすドイツ人コミュニティのための社交クラブ「テウトニア・クラブ」として建てられた。
1918年にはマナセ家の3兄弟が建物を買収し、英国の名高いグッドウッド競馬場にちなんで「グッドウッド・ホール」と命名。1922年にはレストラン、カフェ、エンターテインメントを楽しめる社交場となり、同年には世界的なバレリーナ、アンナ・パヴロワによる華やかな公演も行われた。
そして1929年、「グッドウッドパークホテル」として新たな歴史をスタートさせる。当初はマラヤ(イギリス植民地下のマレー半島の連邦)から訪れるビジネス客などを迎え、1930年代末には広く知られるホテルへと成長した。当時の著名なゲストには、後にウィンザー公となる英国のプリンス・オブ・ウェールズも名を連ねている。
その後、ホテルはシンガポールの激動の歴史を見つめることになる。第二次世界大戦中、日本占領下では日本軍高官の宿舎として使用され、終戦後には英国による戦争犯罪裁判の法廷に。1947年にはマナセ家の子孫、ヴィヴィアン・バス氏のもとへ返還された。
ここからホテルは、時代を先取りする新たな挑戦を始め、シンガポールのホテルとして初めて敷地内にスイミングプールを設置したり、1960年代には、エアコンを備えたホテル専用タクシーを配備したり、当時東南アジア最長とされたバーや空調管理されたワインセラーなどを備えて、革新的なサービスや設備を次々と導入していく。
さらに1989年には、ホテルを象徴する歴史的なグランドタワーが国定史跡に指定されるなど、125年以上に及ぶホテルの歩みは、そのままシンガポールという都市の変遷にも重なっている。
貴族の邸宅のようなローズマリースイート。ここには世界の王族や国際的な著名人、国家元首などが滞在している。
ゆったりとした時間が流れるロビー。
新たな魅力となった「メイフェアウィング」の心地よさ
近年、オーチャードロード周辺にはモダンでスタイリッシュなホテルが相次いで誕生し、シンガポールのホテルシーンも大きく進化している。その一方で、長い歴史を持つグッドウッド・パーク・ホテルも時代に合わせて、2026年に「メイフェアウィング」をリニューアルした。
新しくなったメイフェアウィングには76室の客室を用意。デザインを監修したのは、これまでもホテルの改装を手掛けてきた建築家エルネスト・ベドマール(Ernesto Bedmar)氏。ホテルが長い年月をかけて培ってきた品格を受け継ぎながら、よりモダンでタイムレスな空間へと生まれ変わった。
客室は明るいアースカラーを基調に、天然木やレザー、シザルラグなど自然素材を取り入れた落ち着きのあるデザイン。過度に飾り立てることなく、素材の質感やディテールの美しさを際立たせた空間には、“クワイエット・ラグジュアリー”という言葉がよく似合う。
メイフェアウィングの全客室にはプライベートバルコニーが設けられ、その先に広がるのは穏やかなプールや緑豊かなガーデン。扉を開ければトロピカルな風が室内へと入り、シーリングファンと自然換気による心地よさを感じながら過ごすことができる。
客室は2タイプ。「デラックス メイフェアルーム」は、プールまたはガーデンを望むバルコニーを備え、カップルからファミリーまで幅広い滞在に対応。「デラックス プールサイドルーム」は1階に位置し、客室から直接メイフェアプールへアクセスできる特別なつくりである。朝、バルコニーの扉を開け、緑を眺めながら風を感じ、あえて何もしない時間を楽しむのも良し。
リゾートのような落ち着いた印象のデラックス・メイフェア・ルーム。
機能的で贅沢なデラックス・メイフェア・ルームのバスルーム。
“食べるために訪れる”のも、このホテルの楽しみ
そして、グッドウッド・パーク・ホテルを語るうえで欠かせないのが「食」である。
宿泊したことはなくても、アフタヌーンティーや中国料理、ドリアンスイーツを目的にホテルを訪れたことがあるという人も少なくないだろう。長い歴史とともに育まれてきたダイニングは、それ自体がこのホテルを訪れる理由となっている。
ホテルを代表する「Gordon Grill(ゴードングリル)」の名物は、クラシカルなミートトロリーサービス。ゲストの目の前まで運ばれてきた肉を選ぶというスタイルにも、歴史あるホテルダイニングならではの優雅さが漂う。
シンガポール屈指のステーキとコンチネンタル料理を提供する、ゴードングリル。
中国料理なら「Min Jiang(ミンジャン)」へ。四川料理や広東料理を味わえるほか、「Min Jiang Dempsey(ミンジャンデンプシー)では本格的な北京ダックも堪能できる。午後には「L’Espresso(レスプレッソ)」でイングリッシュ・アフタヌーンティーをビュッフェを楽しむのもいいだろう。また、「Coffee Lounge(コーヒーラウンジ)」の台湾粥も長く親しまれてきた味である。
本格的な四川料理と広東料理が楽しめる、ミンジャン。
そして、このホテルの名をシンガポールで広く知らしめているもののひとつがドリアン。「The Deli(デリ)」のドリアンパフェをはじめ、季節のスイーツや月餅など、ホテルメイドの味を目当てに訪れるファンも多い。
朝食を楽しんだらプールへ。午後にはアフタヌーンティー、そして夜はゆっくりとディナーへ。街へ出掛けなくても、一日を通してさまざまな美食に出会える。
ホテル中央にある、メインプール。
コーヒーラウンジやレエスプレッソ、またデリで楽しめるアフタヌーンティーも見逃せない。
ホテルで過ごす時間そのものを、旅の目的に
グッドウッドパークホテル・シンガポールが位置するのは、シンガポールを代表するショッピングエリア、オーチャードロードにほど近い場所。中央ビジネス地区へも車で約10分と、街を楽しむ拠点として申し分のないロケーションである。
けれど、このホテルに滞在するなら、観光のためだけの拠点にしてしまうのは少しもったいない。館内には2つの屋外スイミングプール、フィットネスセンター、ビューティー&スパサービスなどが揃い、ホテルの中でゆっくり過ごせる環境が整っている。
歴史ある建築の中を歩き、緑を眺めながらお茶を飲む。プールサイドで何もせず、ゆっくりと流れる時間に身を委ねる。旅先ではつい予定を詰め込みたくなるものだが、そんな余白こそが旅を豊かなものにしてくれるのかもしれない。
シンガポールの“今”と、その背景に流れる125年の時間。その両方を感じる旅の舞台として、「グッドウッド・パーク・ホテル」を訪れる、まさに一度は体験したい時間である。
22 Scotts Road, Singapore 228221
Text by Yuko Taniguchi
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