光る君へ 第31回 「月の下で」あらすじ&今週も言いたい放題
『源氏物語』爆誕!『枕草子』ブームへの対抗馬として受けて立つ
今週のお当番、N子です。とうとうですよ。まひろさんに物語が降りてきました。『源氏物語』が爆誕したのです。
私、いつも日曜日の放送の前後、いえ、放送中も、X(旧Twitter)で「#(ハッシュタグ)光る君へ」の投稿を追いながら、番組を見ているのですが、先週の放送前にまひろを演じている吉高由里子さんが、大胆予告とも言うべき投稿をされているのを発見してしまいました。
2024年8月18日、吉高由里子さん Xの投稿です。放送前に源氏物語が爆誕するって予告してました。
「お待たせしました!今宵!源氏物語が爆誕しますよ」って!投稿しているではないですか! とうとうこの日がやってまいりました。『源氏物語』大好き厨のN子、そしてM男さんの心をじーーーーんと熱くさせた回でした。
彰子のために物語を!ってことで道長がやってきた
『枕草子』ブームの対抗馬はまひろの物語
唐突にまひろを訪問する道長のシーンから始まりましたね。『かささぎ語り』の評判を聞いて、彰子さまを慰める物語をご所望です。でも燃えちゃったんですよねえ。と言われても道長、ここで引き下がるわけにはいきません。だって宮中は『枕草子』の大ブーム進行中。一条帝自らがそのブームのど真ん中にいます。娘の彰子のために、実は打倒『枕草子』!という本心はひそめて、まひろに物語の執筆を求めます。でも、まひろさん、決めかねています。
あかねこと、和泉式部から『枕草子』を借り受けるまひろさん。朝までノンストップで読んでいます。あかねさんは『枕草子』は気が利いてはいるけれど、ひと肌の温もり、つまり艶(ツヤ)がないと言います。だから胸に食い込んでこないと。
そういえば清少納言は中宮定子には影の部分がないと言い張っていました。
艶そして影。確かにこのふたつがあることこそ、深いドラマが描けるというもの。それはぼんやりと理解しているけれど、なかなか到達できないもどかしさ。でも書くって道長にお手紙送ったら、さあ大変です。
貴重な越前和紙が大量に届けられる!あの時の約束、覚えていてくれたのね……ラブ♡
美しくて大変高価な越前和紙が、大量に届けられました!まひろは、越前和紙に和歌や物語が書いてみたいと言っていたことを道長が覚えていてくれたこともうれしいし、道長は道長で自分の願いをまひろさんが初めて受け入れたくれたこともうれしいし、相変わらずラブラブ同士です。
明るくて面白い物語を書いてみたけれど、しっくりこないまひろさん。第一、彰子さまにお贈りするのではなく、一条帝の『枕草子』推しを覆させるためって目的もバレてしまいます。
道長に一条帝のことをじっくり話してもらっているうちに、まひろさんの目がギンギンに輝いてきます。話し終えて、道長を見送るふたりが月を見つめたとき!まひろがかぐや姫の話しをしましたね。
これは今回の名場面のひとつだと、N子は色めき立ちました!この放映日である2024年8月18日は、十三夜。もうすぐ満月になる月齢でした。そして何といっても『源氏物語』は、『竹取物語』へのオマージュが色濃いのです。女君たちはみな、かぐや姫が月に還る季節に物語から死去し、退場していきますし、紫式部の『竹取』推しは徹底しているのです。『源氏物語』に横たわる、『竹取物語』をしっかりつかんでくれていて、うれしくなりました。
賢子はあなたの子なんですよ!って、イトさんたちの目が訴えてた、親子対面
石山寺での衝撃の一夜から6年。道長と賢子の対面も果たした回でした。道長とまひろ、賢子を囲んで見守る、イトさんや乙丸たちの目が「あああーーーぁぁぁっ!」って静かに叫んでいました。道長は知っているのか、知らん顔しているのか、膝に乗せてみたりして、周囲のドキドキは止まりません。まひろさんも目が泳いでいるし。
この賢子さんは、18歳で彰子さまの女房として宮中に出仕することになります。父・道長とどんな絡みがあるのか、ここも注目ポイントとなりそうです。
まひろに『源氏物語』が降りてきた!桐壺巻を書き始める!
色とりどりの紙に書かれた物語が、まひろさんに降り注ぐという表現、面白かったですね。あー、降りてきている!って思いました(笑)。そしてとうとう「いずれの御時にか……」と『源氏物語』第一帖の「桐壺巻」が書かれていきました。
ここまで「光る君へ」を通して見てきて、私たちが目撃したものとは、一条帝と中宮定子の幼い恋が、寂しいふたりの心を強く結びつけて、それがゆえに、状況を顧みずに深く愛し合ってしまったことの悲劇でした。
なので、一条帝と中宮定子の悲恋をベースにして『源氏物語』の序章として「桐壺巻」は書かれたんだよ、ってすんなり受け入れられる下地ができていて、すごいな!って思っています。
私は、「桐壺巻」を読むと「紫式部って天才じゃん!」っていつも思います。54帖という大長編の中でも、「桐壺巻」が素晴らしすぎるんですよね。この物語のすべてが書いてあると言っても過言ではない気がします。
天皇が政治的思惑を無視して恋愛することは許されず、有力な後ろ盾を持つ后との間に子どもを設けることを半ば強制しているにもかかわらず、天皇に定められた制限を超えて恋愛してしまったことでの悲劇。主人公・光源氏の恋の遍歴の理由と将来像、また、身分違いの恋の現実など、中国や日本の先行文芸や、仏教思想を織り交ぜつつ、『源氏物語』の主題と物語の伏線が散りばめられているので、この巻を読むだけでもじゅうぶん面白いと思うのです。
本当に「桐壺巻」から書き始められたのか問題
でも、N子的いは、この面白さにはワナがあるような気がしていたんです。「桐壺巻」の完成度の高さが異常!って思っていたのです。だってあまりに出来過ぎじゃありませんか?
次の巻「帚木(ははぎき)巻」は、17歳のヤング光源氏の恋の冒険譚ですが、いきなり受領階級の人妻その義理の娘に夜這いしかけるし、それが不調に終わると機嫌悪くなって、人妻の弟と関係結んでみたり(BLか!)。「桐壺巻」からの繋がりが悪いというか、飛躍が過ぎるというか。「桐壺巻」の光源氏は幼い、いたいけな皇子だったのが、「帚木巻」の光源氏は傍若無人な行動をする恋の狩人なんですよ。この落差が大きすぎると思うのです。
なので「桐壺巻」は、ある程度物語が書かれた後に、物語としての体裁を整えるために後から書かれたのでは???と私は思っていたのです。実際、そういう説もあります。
でも「光る君へ」のここまでの物語の運びだと、とても自然に「桐壺巻」から書かれたんだね!と受け入れられたのが素晴らしいと思いました。
道長も倫子さんも、娘・彰子さまの境遇にお悩み
倫子さんが藤原行成にしたためさせた「新楽府」を一条帝に進呈する際、「お上から彰子の目の入るようにしていただければ」などと、失礼極まりないお願いごとをしてから、道長との間にすきま風がビューっと吹いています。
彰子さまも両親の異変に気付いて心配そう。あなたがボンヤリのせいでこんなことになっているんだよ?自覚ある?って聞きたくなってしまいますけど。仕方ないか……。
もうひとりの妻、明子さんは、自分との長男・岩君と次男・苔君の元服が近づき、倫子さんとの嫡男・頼道と同じ位階、正五位下を授けて、とピロートークでお願いをしたところ、きっぱりと道長に却下されてしまいます。
明子さん的には、血筋で言えば倫子さんにも劣らない出自を持つ自分。子どもにも、それなりの地位や出世を授けたいと願っていたのにお可哀そう。あげく、倫子さんのお家から経済的支援で自分が栄達を遂げたこと、子どもたちが争わせたくない、そのためには母親がそのようなことを子どもに吹き込んではダメと、道長から釘を刺され、さらにお泊りのハズが帰られてしまいます。
明子さまって本当に薄幸な方……。そりゃ性格だって暗くなります。そんなにあからさまに差をつけるなんて。ひどいです!
実際、倫子さん所生の子どもたちと比較して、明らかな差を付けられていた明子さんの子どもたち。その差はえげつくなくて、息子たちは役職も位階もなかなか登れず、娘たちも入内することはなかったそう。倫子さんの娘は全員入内させてるのに、ですよ。
政治的、経済的な後ろ盾がないと、道長のような有力者と結婚しても、人生がなかなか開けてこないという現実が突きつけられます。
貴族間の格差も『源氏物語』のモチーフのひとつ
妾って、ほんとツライですね。夫がいつ来るかもわからず、子どもができても嫡妻の子とは差をつけられ、ヤキモキしっぱなしの人生です。だからこそ、まひろさんも道長の妾になることをよしとせず、こんなややこしい人生を歩むことになったわけですけど。
……なんて、倫子さんのような血筋よし、経済的にも政治的にもしっかりとした後ろ盾のある姫と、藤原道綱の母のように才能は豊かであっても、妾に甘んじる姫もいるのが平安時代。この格差が拡大し、孫子の代まで続くのですから、本当に大変な社会。そしてこの格差問題をしっかり描いているのが「源氏物語」でもあるのですね。
働く貴族たちが可視化された「光る君へ」
また、私が「光る君へ」で、とてもいいなと思ったことがもうひとつあります。それは、男たち、殿上人たちの働くようすが描かれていることです。『源氏物語』でも、政治的な駆け引きは大切なモチーフです。政治抗争に負けて、光源氏は須磨に流されたり、宇治十帖の主要登場人物・八の宮も王位継承の争いに担ぎ出されて負けてしまい、宇治に隠棲しているという設定です。
『源氏物語』の中では、貴族たちがどのように働いているかが描かれていないので、光源氏や頭中将は女のところに通ってばっかりだな!と思われがちですが、「光る君へ」では、道長はじめ、みんな結構しっかりお勤めしています。少なくとも遊んでばっかりなんてことはないわけです。働く男たちが可視化されたというのは、リアリティを与えていますよね。
「光る君へ」では、政治的思惑と恋のゆくえという、縦糸と横糸がはっきりと見えて、飽きさせませんし、だからこそ『源氏物語』が生まれたというのも、いい流れだなぁと思います。
そうこう言っているうちに、もう今日が日曜日!第32回「誰がために書く」放送です。まひろさんがとうとう、藤式部として宮中の女房に!たぶんすぐ実家に戻ると思うけど!楽しみです。
「光る君へ」言いたい放題レヴューとは……
Premium Japan編集部内に文学を愛する者が結成した「Premium Japan文学部」(大げさ)。文学好きにとっては、2024年度の大河ドラマ「光る君へ」はああだこうだ言い合う、恰好の機会となりました。今後も編集部有志が自由にレヴューいたします。編集S氏と編集Nが、史実とドラマの違い、伏線の深読みなどをレビューいたしました!
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