筆者は時たま、天丼を無性に欲することがある。昼飯時などに、有名天丼専門店の前にズラリと長蛇の列ができているところを見ると、同好の士も多くいるに違いない。
今回は筆者の心のベスト3である、銀座「天亭」、神田須田町「神田まつや」、浅草「天婦羅 中清」を紹介する。
あ、おまけの1軒もある。まあ、読んでみてくれ!
銀座「天亭」の店内はピカピカに綺麗だ
心意気も天ぷらも素晴らしい


ツユが染みた衣の「天亭」の天丼
天丼に関しては、作り手も食べ手もサクサク派とグズグズ派に分かれるように思う。サクサク派は、厚くした天ぷらの衣がなるべくサクサクであるものを好む。グズグズ派は、天ぷらの厚い衣が丼ツユをたっぷりと吸ったものを好む。筆者は後者だ。
サクサクが好きならば、天ぷらの衣が着ぶくれした天丼ではなく、普通に天ぷらを揚げた天ぷら定食を食べたほうがよろしいんじゃないでしょうかね?(まったくもって余計なお世話だが) 両者の天ぷらは似て非なるものだろうってのが筆者の認識だ。
で、銀座の「天亭」である。入店した途端に分かるが、ビルの地階にあって油を扱う店であるのに、隅から隅までピカピカだ。トイレも隅々まで磨き上げられている。店を始めてから30年を超えるというのに、素晴らしいことではないか。それだけで店の心構えが分かろうってなもんだ。
そんで、揚げ場の大将もフロアの女性も、物腰が柔らかく、丁寧で親切で気が回る。ホメちぎってしまった(笑)。お茶なんか、半分も飲んでいないうちにササッとつぎ足してくれるんだから。さすがは銀座っていうんでしょうかね。同伴の客も多そうだ.
天ぷらは客の目の前で大将が揚げる。油は太香極淡胡麻油にコーン油を少し混ぜたものだそうだ。真剣な面持ちで揚げ終わると、裏方にサッと渡す。裏では、丼ツユをたっぷりと浸してからご飯に盛り付けられ、熱々を維持したままで運ばれる。蓋を取ったときの湯気がすごい。それぞれの天ぷらの佇まいが美しいではないか。
具材は季節で変わる。本日は海老2本、舞茸、アスパラガス、魚の白身、小海老のかき揚げだ。まずは、やっぱり海老から食べるよね。うむ、丁寧に揚げられた旨い海老天である。
しかも、甘すぎないツユがいい。角張ったところがなく、まろやかさを感じる。それを天ぷらの衣がヤワヤワになるぐらいに吸わせてある。ツユが染みた衣、そこにこそ天丼のポイントがある。丼ツユをかけた白米がこれまた旨い。それも重要なポイントだ。
うーん、いい店だ。


天亭
東京都中央区銀座8-6-3 新橋会館 B1F
℡050-5594-5542
(火~土)11:30~15:00、17:30~21:30
(祝)11:30~15:00
定休日:月・日
天丼 (昼)3240円 (夜)3780円
「神田まつや」では天丼を食うべし
丼ツユ染み染みの衣が最高だ


丼ツユ染み染みの衣が最高!「神田まつや」の天丼
蕎麦屋としては誰もが知っている店だろう。唱和しての、「いらっしゃい~」の店だ。もー、日々の行列が呆れるほどのレベルなのが神田須田町の「神田まつや」である。今や、客の半分が外国人だ。
しかし、非常に回転よくさばいているので、意外に並ぶ時間は長くはない。そういう点も、大事なサービスなんだよね。
と言うか、外国人たちは食べ終わってもダラダラと喋っているが、日本人はサッと引き上げる客が多い。「蕎麦屋の長っ尻(ちり)は無粋だよ」なんて、江戸っ子の流儀をわきまえているのかもしれねえなあ。
とはいえ、この界隈はいいランチの店が多くて、この店を諦めても困ることはない。藪蕎麦神田があれば(こっちも混んでいるから整理券だ)、親子丼のぼたん、カレーのトプカもあるすごい一角なのだ。
筆者は蕎麦屋に入ると、まず、「せいろ」を一枚頼む。それをチュルチュルっとやって、蕎麦そのものを堪能する。次に温かい蕎麦――天ぷら蕎麦か、鴨南蕎麦か、かき揚げ蕎麦か、玉子とじ蕎麦か、山かけ蕎麦を食べるのが通常の流れだ。要するに、2杯食うってことだな(笑)。
この温かい蕎麦の代わりに、天丼、カツ丼、親子丼ってこともよくある。
今回も、まず「せいろ」を頼む。当店こだわりの二八蕎麦である。しかし、なんかなー、まつやファンには怒られるのを承知で言うよ。何度食べても、蕎麦の香りも味もあまりしないんだよなー。どうなんでしょうか。蕎麦で言うなら、近所の藪蕎麦神田のほうが旨いんじゃないかなあ。
気勢をそがれたところに、天丼登場だ!
うーむ、丼ツユが染み染みでいい感じだ。どうせ天ぷらに丼ツユをかけるんだから、とことんやってほしい。天丼はこうでなくてはいかん。衣にもご飯にもツユがたっぷりだ。いいねえ。しかも、(上)だから海老はゴツいのが3尾もいる。
せいろを食べた上に、天丼の海老3尾を頼んだもんだから、お姉さんに驚かれた。「エッ!? 2尾じゃなくて3尾!?」って聞き直されたもんな。でも、どうせ食うなら、3尾でしょう(笑)。
浅草界隈の真っ黒けな天丼を別にすれば、おそらく海老天がこれほど丼ツユを吸い込んだ例はあまりないのではないか。
天ぷらにそのままかぶりつけば、肉厚の海老がプリンである。衣が染み染みということは、この茶色の衣だけで白米のオカズになることを意味している。具が海老だけってのも潔い。
ただし、ぬか漬けは酸味が強く、沢庵は甘みが足りなくて、いまひとつ。要するに、旨くない。そこがザンネンでした。


神田まつや
東京都千代田区神田須田町1-13
℡03-3251-1556
火~金11:00~20:30
土・祝日11:00~19:30
天丼(上) 3685円
天丼(並) 2750円
親子丼 1430円
かき揚げ天丼 1760円
「天婦羅 中清」の「雷神揚げ丼」は都下随一!
小海老の量と旨さにたまげるゾ


「天婦羅 中清」の”雷神揚げ丼”
浅草で天ぷらと問えば、その名が筆頭に挙がる店だ。
最初に言ってしまうと、いやー、もー、ここのかき揚げ丼は最高に好きかもしれない。
「中清」は浅草公会堂の筋向いにある。永井荷風、久保田万太郎など、あまたの文豪が贔屓にしてきた店だ。なにしろ歴史が古い。初代が屋台で始めたのは幕末である。江戸時代だぜ! 現在の場所に店を開いたのは明治3年のことだ。
文豪がなんだ、歴史がどうしたと思って遠ざけてきた。だから、入るのは初めてである。その不明を大いに恥じることになる。
古色蒼然とした建物の風情がいい。中に入れば、ぴかぴかに掃除してある。筆者はそれだけで、店に対する信頼度が50%ぐらいアップする。トイレのタイルもピッカピカや。
この店は、天婦羅はもちろんのこと、コース料理も出している。また、種々の慶事や子どものお祝いや法事、芸者さんとのお座敷遊び(!)にも対応してくれて、いわゆる下町の暮らしとともにある料亭なんですな。京都の料亭がそうであるように、庶民の文化を守るのは立派なことだ。お座敷の数が多いのもそのためだ。
平日の昼過ぎに一人でフラリと入った。案内されたのは、中庭に面した6人用のテーブルだ。もちろん、一人利用。えー、なんか、気前がいいんだな。筆者はこの潜入取材では大抵一人なので、カウンター席か2人席に真っ先に目が行くのだが、こんな上等な席に通されて、ちょっと面食らった。まるであくせくしていないんだねえ。
中庭には池があり、この日はしょぼしょぼと雨がそぼ降り続けたために、いい具合に草木や苔が濡れている。池の中をたゆたう錦鯉の色と模様が鮮やかだ。
さて、ここに来たのは、かき揚げ丼の一択のためである。メニューを見んでも決まっているのだ。
「雷神揚げ丼」はこの店の名物で、由来をたどれば、東大の仏文学者の辰野隆博士の命名だそうだ。雷門に立つ雷神様が持つ雷太鼓に似ているからだと言う。
丼の蓋を開けてビックリした。たっぷりと丼ツユを吸ったかき揚げがドーーーッンとお目見えだ。雷太鼓だよ。端からほじくって食べ始てみたが、すぐにはご飯までは到達しそうにない。相当に掘ったところでようやくツユを吸った白米が見えた。
つまり、かき揚げは6~7センチもの厚さなのだ。よくある衣と玉ねぎで嵩増ししたかき揚げなんかと違って、びっしりと具が入っている。具は小海老と青柳の貝柱だけなのだが、おそらくは50~60個ぐらい入っているのではないか。感動しちゃうよーん。
だからずっしりと重いのだが、厚いにもかかわらず、真ん中までしっかりと熱が通っていて、海老がとても旨い。これは高度に熟練した技を感じさせる。ぶっちぎりの旨さだぜ。
丼ツユをしっかりと吸った衣も、それがご飯のおかずになるぐらい旨い。丼ツユはまるで角がなく、丸みを帯びている。
天丼としては、傑作と呼ぶべき代物だろう。さすが名物! さすが4400円!だけのことはある。
途中でちょっと心配になったのは、果たして完食できるかということだ。しかし、ゆっくり食べても、かき揚げが分厚いから、まったく冷めない。これも凄いことだ。
口直しは、木綿豆腐と三つ葉の味噌汁と沢庵と青菜の漬物だ。味噌汁は白味噌なんだが、味が濃くて旨い。沢庵は理想的な味で、漬物は塩気も旨味もしっかりあるタイプで、天丼で甘辛くなった口を、味噌汁とともにすっきりと切ってくれる。だから、わしわしと食べ進めることができた。普通の女子には完食はムリかもしれん。
とても不思議だったのは、食事を終えた4人ぐらいの団体が、お座敷からわらわらと何組も出てきたのだが、全員が外国人だったことだ。日本人は一階に私だけ。都内随一のかき揚げ丼を出す店なのに、どういうこっちゃと思った次第だ。まー、並ばずに入れるからいいか。


天婦羅 中清
東京都台東区浅草1-39-13
℡03-3841-4015
月・木・金11:30~14:00、17:00~21:00
土・日・祝日11:30~20:00
定休日:火・水
雷神揚げ丼 4400円
上天丼 3520円
オマケの「土手の伊勢屋」(漫談風)
もう一軒だけ紹介しておく。三ノ輪の土手というところにある「土手の伊勢屋」である。超有名店だ。駅から遠いので、山手線鶯谷駅でタクシーに乗った。この時の運転手がアタリだったのか、ハズレだったのか――。
「土手の伊勢屋まで行ってください」と告げると、「おっ、お客さん、吉原大門の手前だね。『あしたのジョー』の銅像が立ってるとこっすよね。有名店だ」と調子がいい。
「あ、銅像があるんすか。知らなかった」「あそこはねえ、お客さん。丹下のオヤジと、ケンカに明け暮れていたジョーが出会ったとこなんすよ。昔はドブ川が流れていてねえ。お客さん、知ってやすかい? 『立て~、立つんだあ~、ジョーッ!』ってねえ」
あいよ、もちろん知ってらあ。
「あたしゃ、今日は、これで上がりだから、最後に吉原勤めのお姉さんでも乗せようと思ってたんすよ。『あら、お兄さん、今日はヒマだから店に寄ってよお♡』なんて言われたりしてねえ、ワハハ」
ワハハ、最後の客がワシで悪かったな。
そして、「燃え尽きたぜ…真っ白にな…」と、最後にホセ・メンドーサと戦ってジョーが灰になるところまで、延々とアニメの再現が続くのであった。ちばてつや先生と一緒に撮った写メまで見せられて。なんか知らんが、タクシーを降りたら手を振られた(笑)。
ところがである。開店20分前に到着したのに、長蛇の列で、なんと40番目ぐらいだ。なんじゃ、こりゃ。この日は諦めて、再訪を誓った。立て、立つんだあ~、諦めるな~、ってか。
しかしその後、行けていないのである。漫談みたいな前振りだけで、勘弁してもらおう(笑)。YouTubeで見ると、
「これを食べなきゃ人生ソンだよ」とは
うまいものがあると聞けば西へ東へ駆けつけ食べまくる、令和のブリア・サバランか、はたまた古川ロッパの再来かと一部で噂される食べ歩き歴40年超の食い道楽な編集者・バッシーの抱腹絶倒のグルメエッセイ。
筆者プロフィール
食べ歩き歴40年超の食い道楽者・バッシー。日本国内はもちろんのこと、香港には自腹で定期的に中華を食べに行き、旨いもんのために、台湾、シンガポール、バンコク、ソウルにも出かける。某旅行誌編集長時代には、世界中、特にヨーロッパのミシュラン★付き店や、後のWorld Best50店を数多く訪ねる。「天香楼」(香港)の「蟹みそ餡かけ麺」を、食を愛するあらゆる人に食べさせたい。というか、この店の中華料理が世界一好き。別の洋物ベスト1を挙げれば、World Best50で1位になったことがあるスペイン・ジローナの「エル・セジェール・デ・カン・ロカ」。あ~、もう一度行ってみたいモンじゃのお。
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