「La Liste(ラ・リスト)」は、世界200カ国の43200軒のレストラン、ホテル、パティスリーをガイドするモバイルアプリだ。
アプリを開くと、世界のどの場所にいても地図が表示され、至近の美味しい店が検索できるという優れものである。
「ラ・リスト」は毎年、世界のレストランを1000位まで発表することで知られている。その順位は、独自のアルゴリズムによって主観を排した形で導き出される。
同アプリは、元駐日フランス大使で永世フランス大使でもあるフィリップ・フォールが2015年に創設したもので、今年で10周年を迎える。
2026年度版「ラ・リスト」にノミネートされた日本のシェフたち。
世界中のレストランが同列で並ぶランキング
ちなみに、2025年版で世界のトップ5にランクインした日本のレストラン7店は、以下のとおり。
★「松川」(同列1位、99.50点)
★「茶禅華」「鮨さいとう」(同列3位、98.50点)
★「新ばし星野」「L’Osier」(同列4位、98.00点)
★「飯田」「日本橋蛎殻町すぎた」(同列5位、97.50点)
「ラ・リスト」では、点数の高い順に世界各国の店が混在する様が実に面白い。例えば、2025年度版で同列1位に並ぶのは9軒で、「ギィ・サヴォワ」(パリ)、「龍景軒」(香港)、「ル・ベルナルダン」(ニューヨーク)、「松川」(東京)などだ。
2026年版は11月24日に、パリのケ・ドルセー(フランス共和国外務省)にて発表される。わが国からは125軒がノミネートされ、日本はランクインの最多国となっている。過日、フランス大使公邸にて、その発表の宴が催された。
今回、創設者のフィリップ・フォールと、年間最優秀シェフ賞を受賞したパリにある「Restaurant KEI」の小林圭に話を聞いた。まずは、小林の話から。
「Restaurant KEI」の小林圭が語る
受賞した感想はいかがですか?
「まず基本的なことですが、フランス料理があるから今の自分がいるわけです。フランス料理があって、その上で料理人をやっているからこそ、今このフランス大使公邸に呼んでもらえる。
ただの小林圭なら、ここに来られないんですよ。
自分たちが、料理という職業に携わらせてもらって、その自分たちの飲食を、『ラ・リスト』に評価されたのは、すごく嬉しいことです」
受賞したことで、何か変わったことは?
「賞を受けた後も前も、日々やっていることは一緒です。自分ができる全てのエネルギーを使って、チームと一緒に、最高なパフォーマンスをしながらお客さんを魅了する――それだけしか頭にはありません。
そのためには、まずはいい食材を集めることです。そして、その食材の命を預かって、自分たちが手を加えることで、もっといい形で、お客さんに食べてもらう。その空間と時間に対して、ここにいて良かったな、幸せだなと思ってもらえたらいいな、そういう思いでいつも料理を作っています」
料理の現在と『グランメゾン・パリ』について語る小林圭。
「自分は天才じゃないから、作り続ける」
先般、放映されたNHKの「プロフェッショナル」ですが、冒頭に、「料理を出した2秒後にはもう後悔です」という発言がありましたね。
「番組では言葉足らずでしたが、料理を出した瞬間には、次だったらもっとできると考えるわけです。だから、いまこの皿を出すかどうか、その駆け引きは自分の中でずっとあります。その思いが『後悔』という言葉になりました。
ですから、番組の担当者によく言っていたのです。『自分は天才じゃないから、天才になってみたいよね。なれないから作り続けるしかないんです』って」
パリにあるミシュラン3つ星の中で、「自分たちは下の方じゃないか」と語っていたのも印象的でした。
「まだ自分たちの店が若いっていうことがありますね。それと、お客さんは記憶と共にありますから、そこが如何ともしがたいところです。なぜなら、歴史はお金で買えないからです。
とすると、自分たちが作れるのは、未来だけなんです。
だからと言って、自分がアラン・デュカスさんの料理を再現して同じものを作ったところで、彼には歴史とそこの空間と全てがあるから、かなうわけがありません。
やはり、自分たちは自分たちの良さは何かということを追求しながら、ここで勝たなきゃいけないんですね。
パリには3つ星が10軒。そこには『アラン・デュカス』、『ギィ・サヴォワ』からみんないるわけです。
その中で、やっぱりお客さんは取り合いになるわけじゃないですか。どうしたってそこを取っていかなきゃいけないだろうし、評価も取らなきゃいけないんですね。
そのためには、まずはブレずに、いつも同じことをやり続けることです。
人生って、いつも何か起きるじゃないですか。その中で今の自分をずっと超え続けるしかないと思っています。それでゆくゆくは、何が見えるんだろう、どういう景色があるんだろう、それを知りたいですね」
ミシュラン3つ星と『グランメゾン・パリ』
NHKの番組に出ていなかったことはありますか。
「絶対に入れてもらいたかったのは、自分たちのチームのことです。チームがあるからこそ、今の自分があるわけですから。
というのは、例えばアラン・デュカスさんたちは大リーグです。どこを取ってもみんなスターが揃っている。うちは一人ずつを比べたら本当にもう弱小です。だけど、チームとして見た時には、デュカスさんに伍していけるかもしれない。それが自分たちの強みだと思っています」
2020年からミシュラン3つ星を維持するのは凄まじい。気を抜ける瞬間はないのか。
「2014年に初めて星を取ってからはないですね。星が3つになってからは、重圧はもっと強くなりました。
何が強いかと言えば、やっかみもありますが、期待度なんです。日本からお客様が来てくれて、『日本の誇りだよ』と言ってくださるのはすごく嬉しいです。それが前に進むエネルギーにもなります。と同時に、積み重なると責任はやっぱり重いですね」
映画『グランメゾン・パリ』の撮影はいかがでした?
「日本人なら誰でも知っている俳優さんと雑談している時にこう聞かれました。『モチベーション、どうやって作ります?』。そして彼自身は、『負けたくないよね。負けず嫌いだよね。それだけ』と言いました。
それにはすごく共感しますね。
彼は生き方がブレない。でも、ブレないからこそ叩かれるし、褒められもする。それをずっと繰り返している。
自分も彼に負けられないし、違う職業だけれども、いいライバルでいたいと思っています」
「ラ・リスト」を創設した元駐日フランス大使のフィリップ・フォール。
この10年間のガストロノミーの変化
続いて、フィリップ・フォールに話を聞いた。「ラ・リスト」を創設してから10年、その間、ガストロノミーの変化をどう感じていますか?
「『ラ・リスト』は現在1200の資料から情報を取っていますから、大きな流れを把握できるアドヴァンテージがあります。
この10年の間に最も影響があったのはインスタグラムでしょう。インスタグラムは人々に目で食べることを定着させました。何よりもビジュアル優先で、食べ物に引き寄せられるという傾向があります。
こうした傾向はもともとあったのですが、それはさらに強まってしまって、シェフたちは味覚よりも見た目で勝負というところがどんどん強くなってきているように思います。
それで何が起こるか。結果として、料理が世界中で均質化してしまうのです。どうしても、似てしまう。
見た目に派手な黄色だとか、赤や青を使い、あるいは花を散らしてみたり。見た目を引き付けるような料理が出てきてしまって、ジャガイモやセロリなどの地味な食材が居場所をなくしてしまう。
ミシュランガイド自体も、そうした傾向に引っ張られてしまっているところがあります。若い方、若い世代のシェフにそういったポジションをどんどん与えているように見受けられます。それが一点目です」
二点目は何か?
「一点目とは矛盾する動きです。我々の料理のルーツというところに立ち返る必要があるのではないかと考えています。例えば、地域ごとの特性の出る料理、あるいは50年前100年前、我々の祖父母なんかが食べていたようなオーソドックスな料理を現代化していく、そういうことも必要なのではないか。
従って、なるべくオーセンティックな味、正統的な料理を提供するという傾向も、特に若いシェフの中で発生しているように見受けられます。
具体的には、ローカルの農産物や魚や様々なものを使う。それから、その地方出身のシェフがその地方に留まってその地方独自の料理を見せていくという傾向も、特に若い方に今見られていると思います。
一つ目と二つ目の傾向は、どちらが勝つのかという話になった時に、明らかに二つ目の方に軍配が上がるでしょう。見た目よりも味で勝負というのは、やはり勝つに決まっています。
ミシュランで星1つを取ったレストランは、毎年15から20%が倒産をしています。実際に、インスタ映えするような一皿を出す傾向のレストランが、15から20%の中に入っているのではないでしょうか」
レストランの本来の存在意義
インスタがもたらす別の功罪は?
「インスタで知られてしまうと、これは外せないという料理をどうしても出す傾向があります。
コース料理と言えば、大体6~7皿で構成されていて、アミューズ、プレ前菜、前菜、魚、肉、デザートです。
ところが、今日のお魚のサバが私は食べられないとしても、『ごめんなさい。他にないんですよ』ということが起きる。お客様のことよりも、お店の都合優先で料理を構成してしまう傾向も見られます。
本来であれば、お客様に楽しんでもらうために様々なタイプの料理を出すという方が、レストランの本来の存在意義ではないでしょうか。
リ・ド・ヴォーが食べたい、フィレ・ド・ポワッソンあるいはラングスティーヌを食べたいとか、その時の体調や気分によって食べたいものは変わります。そういう柔軟性が欠如してしまうのも、インスタの弊害ではないでしょうか。
私が危惧している傾向は、シェフがどうしても自己満足のために一皿を提供するところがあるということです。お客様にこれを食べなさいと強要してしまうわけです。本来ならば、お客様の好みを伺ってお出しすべきですよね」
これからのガストロノミーにとって、「ラ・リスト」はどのように貢献できるのか?
「私たちのアプリの特徴は、1に透明性を大事にすること、2に独自のアルゴリズム、3がしっかりしたランキング、4が便利なツールです。
透明性に関しては開始した当初から、いちばん重要視しているコアの部分です。1200の情報ソースを使って、できる限り公平なリストにしています。
そのためのアルゴリズムは裏で一切のお金の動いていないものです。実際にレストランに行って何かを要求するわけでもなく、完全に独立性が確保されています。もちろんAIの技術も使っているし、10年間で蓄積したデータベースも誇るに足るものです。そうしたことを総合して、確かなランキングになっているのです。
このアプリはまだ一般にはそれほど知られてはいませんが、プロの方々の間では非常な広がりを見せています。
ツールとしては、世界中のどこにいようと、例えば紛争地であっても、今いる場所で美味しいレストランが検索できます。とても便利なものです」
イノベーション賞を受賞した「鮨 めい乃」幸後綿衣。
特別賞を受けた面々
最後に、小林の他にも特別賞を受けた料理人がいるので紹介しておく。
正統的職人技賞「天寿し 京町店」天野功一(北九州市)、イノベーション賞「鮨 めい乃」幸後綿衣(東京港区)、ゲームチェンジャー賞「Dining 33」山地裕也・津野一平(港区麻布台)、注目の若手賞「レストラン ナズ」鈴木夏暉(軽井沢町)、注目の若手賞「エーヴィック」菅野眞次(港区青山)、地域社会振興賞「ル・トリスケル」勇崎元浩(広島市)、注目のパティシエ賞「ヴェール」田中俊大(新宿区神楽坂)。
なるほど隅々まで目が行き届いていると思わせる授賞かもしれない。
(文中敬称略)
Profile
石橋俊澄 Toshizumi Ishibashi
「クレア・トラベラー」「クレア」の元編集長。
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