暦の上では立春、なのにまだまだ寒い2月中旬に「界 加賀」への旅のお誘いを受け、北陸新幹線に乗って行ってきました。
長野駅に近づくと車窓から見える景色が一変。屋根も畑も山々も雪に覆われ、白い世界です。さぞや寒いのでは……と身を縮めていましたが、金沢駅を降り立つと不思議なことに寒さをあまり感じないのです。水分を多く含む雪なので湿度が高いため、寒さをあまり感じないとか。
加賀獅子頭の工房を訪ねて
今回は「界 加賀」が、この3月から実施する手業のひととき「加賀獅子頭の400年の伝統に浸り、職人と語らう工房ツアー」に参加するため、一路、知田工房さんに向かいます。
知田工房は、石川県に唯一となった、加賀獅子頭専門工房。二代目の知田清雲さん、奥さまの依利子さん、息子の大芽さんの3人で、加賀獅子の伝統を守っていらっしゃるご一家です。


二代目 知田清雲さん。知田工房は創業70年を誇る工房。「父が創業したころは、この界隈に何軒も加賀獅子頭の工房があったけれど、現在ではうちだけになってしまいました」とお話してくれました。
加賀獅子と言えば、泉鏡花の「天守物語」を思い出しました。姫路城の天守閣に住まう美しい妖怪の女主人のお話です。
その天守に飾られているのが、特大の獅子頭。金沢出身の泉鏡花、そして獅子頭ときたら、もしかしてあれは加賀獅子では???と常々思っていたので、今回の訪問をとても楽しみにしていました。
知田工房では、獅子頭の制作風景を見学したり、伝統工芸を守り続けていくことのご苦労などをお聞きするだけではなく、ミニ獅子頭の根付に絵付け体験もセットになっています。私は不器用なんですよ……大丈夫でしょうか……と気弱になっていましたが、そんな不安は一蹴。奥さまの依利子さん、息子の大芽さんが、丁寧に塗り方のコツを教えてくれます。


修理も手掛けるので、全国各地から知田工房に獅子頭が集まります。能登半島地震で傷んでしまった獅子頭もこちらで修復しているそうです。加賀獅子頭は、確かに泉鏡花の「天守物語」に出てくる獅子そのもののようでした。間近で見るとすごい迫力です。


思い思いの獅子頭の根付、完成! 獅子頭が厄を食べてくれるという云われがあり、自分だけのお守りになります。マイ獅子頭は一番左にいるコです。
冬の贅沢「蟹会席」に圧倒されます
知田工房をあとに「界 加賀」へと向かいます。今晩のメインは「極み タグ付き 活蟹づくし会席」です。刺身からはじまり、焼き活蟹、揚げ物、蒸し蟹、蟹のすき鍋、雑炊まで、これでもかと言うほどの蟹づくしです。テンションがあがります。
蟹って、みな無言で殻をむき続けるイメージがあったのですが「界 加賀」は違います。たとえば蒸しものの場合、蒸したものを見せてから、ちゃんとおのおのに剥いたものを出してくれるのです。とっても親切。まさに至れり尽くせり。
日本酒の利き酒セットを飲みながら、蟹三昧のひととき……。冬ならではの贅沢です。


お造りから蟹がドーンと鎮座。プルプルとした食感と甘みが最高です。


しめ縄蒸しが登場すると、まず大きさに圧倒されて歓声が上がります。しめ縄蒸しは、蟹を塩水に浸した縄で結わえて蒸すので水分が失われず、よりジューシーな蟹の身を楽しめる調理法です。器も、今回のしめ縄蒸しのために特別に作られた、地元九谷焼の作家ものという凝りようです。
界ならでは。ご当地楽「加賀獅子舞」を堪能する
午後9時、夕食も終わると、ライブラリーラウンジが、つかの間のシアターに変身します。「界 加賀」のスタッフによる、加賀獅子舞の華麗な演舞が始まるのです。
加賀獅子舞の歴史は、初代加賀藩主の前田利家の時代から始まったそうです。「白銀の舞」という、当地の獅子舞は想像以上に勇壮で激しいもの。その迫力にゲスト一同見入ってしまいました。舞の終了後は、希望するゲスト全員と記念撮影もできるので、長い列ができます。
「界 加賀」の獅子頭も、知田工房で制作されたもの。地元の伝統を大切にする「界 加賀」の思いの深さを感じさせてくれました。


大迫力の加賀獅子舞。


この日、大熱演で獅子舞を披露してくれたスタッフ。手業のひととき「加賀獅子頭の400年の伝統に浸り、職人と語らう工房ツアー」に参加すると、最前列で見ることができます。
美人の湯・山代温泉のお湯と雪景色
もちろん温泉も堪能しました。山代温泉は、ナトリウム・カルシウムー硫酸塩・塩化物泉という、弱アルカリ性の肌あたりの優しいお湯。さっそく大浴場へと向かいました。
浴室まわりには、九谷焼のアートパネルや加賀提灯など、地元の伝統工芸がふんだんにあしらわれ、その土地のものに触れることができるのも、旅に来たのだなあという、気持ちを高めてくれます。
「界 加賀」には湯守がおり、気持ちよく入っていられる温度に管理しているそうです。根雪の残った坪庭を眺めながら入る温泉はまさに極楽。柔らかさを感じるお湯なので、いつまでも入っていられそうです。雪国の冬の温泉の醍醐味ですね。


雪の残る庭、雪吊りをした松は、思い描く雪国そのもの。


内湯の壁面に飾られているのは、地元の九谷焼作家のアートパネル。4人の作家がそれぞれ「色絵」「青手」「赤絵」「藍久谷」という、九谷焼の4つの伝統様式で制作。四季を描いています。
美しいべんがらラウンジで過ごす夜


夕食後は、2024年3月にオープンしたばかりのべんがらラウンジを訪ねてみました。入口ののれんをくぐると、「九谷焼」や「山中塗」など約100種類の器が現れます。この中から好きな器やグラス、お盆を選ぶと、そこにお酒とおつまみのセットを用意してくれるのです。
4組限定の席からは、山代温泉のランドマークと言える「古総湯」が目の前に。ライトアップされた「古総湯」のステンドグラスからこぼれる光と、べんがらラウンジの鮮やかな赤が、夜の闇とないまぜになって、なんとも言えない美しさです。


目の前は「古総湯」。べんがらラウンジの赤、雪の白、「古総湯」からこぼれるステンドグラスの色と、光と闇が静かな夜に映えます。


季節によって変わりますが、日本酒3種、ウイスキー、焼酎、ジン、梅酒などから1つ、おつまみは香の物、ナッツ盛り合わせ、甘味などから選びます。ノンアルコールドリンクも用意されています。


翌朝は気持ちよく晴れて、山代温泉を散策へ。地元の和菓子屋さんや九谷焼のお店をのぞいたりして過ごしました。お湯もいいし食事も美味しい。そして地元の伝統に触れることもできて、記憶に残る旅となりました。
今度は、金沢21世紀美術館や国立工芸館、石川県立図書館、そして泉鏡花記念館などを回って金沢で1泊し、2日目に「界 加賀」でゆっくり過ごす、なんていう旅もいいかも。金沢で文学散歩して、山代温泉へ……というコースもありですね。
次の旅を思い描きたくなるような、そんな旅になりました。


中嶋千祥 Chisa Nakajima
Premium Japan 編集長代理。1950~60年代の日本映画鑑賞とワインを飲むのが大好き。
Premium Japan Members へのご招待
最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。
Lounge
Premium Salon
編集部&PJフレンズのブログ
Premium Salon